本記事は、韓国地域情報開発院発行の機関誌「Local Information Magazine Vol.62 2010.5」の一部を当研究所において翻訳したものである。
世宗大 新聞放送学科 教授
イム・ジョンス
現実世界の情報が仮想の世界を通じて再び利用者にデジタル情報として提供されることによって、現実世界が情報空間という仮想の世界に拡張する。そのような点において21世紀の人類が生きる世界は、仮想と現実の相互結合社会である。
1.リーマンショックと仮想世界
アメリカで起きたリーマンショックによる経済危機は、太平洋を越えて韓国に影響を及ぼすまで1日とかからなかった。これは現実(the actual)の経済活動が仮想(the virtual)の経済活動、言い換えれば投資や貯蓄などの仮想世界での活動に直接作用した結果であり、全体的な活動(the global)と、地域的な活動(the local)が深く関係する構造が存在していることを意味している。
この様に、私たちの日常生活は現実の世界と仮想の世界が相互接合して創出されており、その中で、組織化された産業社会とは比較自体が無意味な程に高度化し、後期近代化社会のこの様な属性は仮想世界の発展によって一層の広がりを見せている。
2.仮想世界とは
仮想世界は、技術的には1968年に開発され、コンピューター技術を通じて実在を精密に具現するシミュレーションという概念を含む。現在、私たちはメディアやコミュニケーションテクノロジーを通じて媒介されたコミュニティの存在によって、物理的には不在である他者との共同空間を感知することが出来、仮想世界が虚構空間であるという初期の考えは次第に矯正されるに至っている。
しかし、仮想が依然として「不在」を想起させるのは物理的な存在としての現実と対比されるためであり、私たちはここで仮想と現実、実在を区分する必要がある。仮想は実在(the real)と対立するのではなく、現実(the actual)と対立している。デジタル技術を通じて実現される仮想世界は、想像の世界を現実のように作り出し、人間のあらゆる感覚器官を人工的に創造した世界に没入させることによって、自身がまさにその想像の世界に存在するような錯覚を感じさせる実在世界(the real world)である。結局、仮想性(virtuality)と現実性(actuality)は、実在性(reality)を構成する、それぞれ異なる2つの方式なのである。
最近モバイルインターネットの爆発的な普及と並んで注目される拡張現実(augmented reality)は、実在としての仮想世界を見事に見せてくれる。拡張現実は、現実世界とグラフィックデータという仮想の情報が重なることによって形成される仮想世界によって、利用者に現実世界と仮想世界が混在した、あるいは現実世界から拡張した世界を経験させる。現実世界の情報が仮想の世界に進入して、再び利用者にデジタル情報として提供されることによって、現実世界が情報空間という仮想の世界に拡張(また強化)するのである。そのような点において、21世紀の人類が生きていく世界は、仮想と現実が相互接合された社会である。
3.「現実と仮想世界の相互接合」がもたらす社会
大小を問わず、現実と仮想世界の相互接合によって生まれた変化は私たちの日常生活のあちこちに存在し、その中の大部分は、私たちの慣れ親しんだ過去の日常を新しいものへと構造化させるに至った。その変化は非常に多様で流動的である。
人間関係の個人化と個人主義の拡大
仮想世界では、人間関係や物事に対する距離を「私」の自由に設定することが出来る。その結果、個人は家庭や職場、学校など身近なコミュニティと組織内におけるこれまでの人間関係と異なる「中間的人間関係」を形成している。SNSを通じて大衆化している「友達」という用語は、それを示してくれる代表的な事例である。SNSを通じて人々は「友達」と交流する。さらに言えばこれは、仮想世界の人間関係が「私」と「友達」以外は他者として区分する閉鎖されたコミュニティ(gated community)の性格を帯びていることを意味する。仮想世界の人間関係は、認定と不認定、つまり「登録」と「解約」の関係として再構築されるためである。
新たな情報発信と民主主義
新たな情報発信の場として、仮想世界は一部の支配層による長きにわたる情報独占に対しての楔として、重要な役割を担っている。今では、仮想世界によって発信された情報がより強い影響力を持つこともある。実際、多くの人々が社会的に注目される出来事において特にインターネットを活用して情報を入手する。仮想世界に特有の保存性と両方向性によって、いつでも望む情報を参照することができるためである。これによって、現実の出来事がリアルタイムに仮想世界で論議され、それが解決をもたらすこともあり得る。
これらのことから仮想世界は、多様な利用者の参加を通じて、「リアルタイムの情報発信」と「リアルタイムの民主主義」を実践できる空間になっている。
構成主義の知識社会学:問題解決能力
仮想世界は、両方向性と保存性を通じて、個人が切迫している問題を解決できる「問題解決能力(capability)」を積極的に提供する。私たちも、与えられた問題の解決方法として度々仮想世界の情報と知識を利用する。運転行為だけを見ても、ナビゲーションという拡張現実の能力に依存している。仮想世界の問題解決能力は、ますます我々が解決しすべきことを仮想世界に転移させることはもちろんのこと、その範囲も拡大させるであろう。これは日常の知識生活が、仮想世界から知識を得て問題を解決する「構成主義的知識社会」に移行していることを意味する。構成主義の知識生活は、暗記と記憶に依存する行動主義的知識生活と比較して、その速度や便利性が非常に高い。
充実した日常:「間」と「流れ」(interval & flow)の発見
長い間、「間(interval)」という概念は、捨てられた時間、捨てられた空間と認識されてきた。しかし、仮想世界によって、このような「間」を非常に有用なものとして利用するようになった。仕事やプライベートに関する多くのことが存在している仮想世界では、この「間」の時間でもいつでも呼び出し活用することができる。多くの人が移動時間、授業の空き時間などの「間」を仮想世界で満たすことによって、行動と認知の「流れ」を継続させている。私たちの日常において1日は過去と同じ24時間だが、すべきこと、できることがより多くなった「充実した日常 (thick everyday life)」へと変化している。
4.相互接合の社会、相互接合の文化
現実世界と仮想世界の相互接合が驚くべものであるのは、それが私たちの日常を新しいものへと再構築するためである。そして、これに伴い私たちの生活は急激に変化している。インターネットに代表される様々な仮想世界に触れながら、この変化は過去とは比較にならない速さで進んでいる。また、この変化によって、私たちの日常生活の全領域は、今までと全く異なる相互接合の文化(convergence culture)へと変貌を遂げている。
今、私たちの日常生活における実在世界は、現実と仮想の相互接合による「調和(harmonizing)」、言い換えれば仮想世界が現実世界を補助または補完したり、現実世界が仮想世界を補助または補完することによって、「現実世界-仮想世界」が連結した世界として成立している。
人類は、金融、教育、政治、趣味、商取引、余暇、さらには人間関係に至るまで、現実世界と仮想世界の相互作用によって構築される新しい日常の様式を体得していっている。上記の様な生活の急激な変化にも関わらず、これに関する社会的論議がまだ始まってもいない状態だということが、もどかしいばかりである。