WEB記事

無償

2022.10.17

2022年10月号 研究員コラム ローコード開発ツールと導入自治体規模の関係性についての一考察

一般社団法人行政情報システム研究所
研究員 小池 千尋

1.はじめに

 近年、ITスキルをほぼ必要とせず、GUI 操作でサービスやアプリの開発を完結させることができる「ローコード・ノーコード開発」(以降、ローコード開発)への関心が高まっている。そのメリットとしては、導入にかかる時間及び費用が少ないこと、業務に応じて柔軟なカスタマイズがしやすいこと、開発及び管理の内製化も可能であることなどが挙げられる。行政機関においても、ローコード開発を活用することで、行政サービスのデジタル化による利用者の利便性向上や、庁内業務の効率化を機動的かつ柔軟に実現しようとする機運が高まりを見せている。
 このように、ローコード開発は様々な便益をもたらす一方で、既に導入が先行する民間企業においては、ローコード開発ツールを安易に選定した結果、導入後になってミスマッチが明らかになるという課題も指摘されている。例えば、ローコード開発ツールが備える標準機能の限界を検討せずに導入してしまうと、結果的に自作のプログラムを作成することが多くなり、属人性も高くなってしまうため、ツールを導入するメリットが削がれるほか、その後のツールのバージョンアップにも影響する1。このようなリスクは、自治体においても、今後、ローコード開発の導入が進むにつれて顕在化してくると考えられる。ローコード開発ツールと導入先組織とのミスマッチをいかに防ぐかが重要な課題になる。
 ここで検討すべき点は、ツールの標準・拡張機能や導入・運用コストはもとより、ツールの操作性、利用環境その他の制約条件、関連システムとの親和性、提供会社によるサポートなど多岐にわたり、的確に評価することは容易ではない。こうした中、検討対象とするツールに、自治体規模による向き・不向きがあるかどうかが分かれば、ツール選定にあたっての有力な手掛かりとなり得る。
 そこで本研究では、ツールによって大規模自治体向けや小規模自治体向けといった傾向の差異が存在するかを明らかにする。

1 https://www.canon-its.co.jp/column/detail/wp_column01_2.html

 

2.研究方法と結果

(1)研究方法

 本研究では、現在自治体で広く用いられているローコード開発ツールが、それぞれどのような規模の自治体に導入されているかを調査し、ツールによって、自治体規模別の導入傾向の差異が存在するかを明らかにした。具体的な手順は本記事末尾の枠囲いに示した通りである。

 

(2)分析結果

 各ツールの自治体規模別導入割合を示したものが図表1である。同表では、大規模自治体への導入割合、次いで中規模自治体での導入割合が高い順にツールをAからGまで配置している。

図表1 各ローコード開発ツールの自治体規模別導入割合(2022/8/19時点)

(出典)筆者作成

 同表から、大規模自治体に強みを持つツールA、大規模から中規模の自治体に強みを持つツールB及びC、中規模から小規模の自治体に強みを持つツールDからF、小規模自治体に特化しているツールGというように、ツールによって強みとする自治体規模に明確な分布が存在することが見て取れる。すなわち、ローコード開発ツールによって、それが導入されている自治体規模別の導入実績に明確な傾向の差異が存在することが確認できる。

 

3.考察

 以上の結果から、自治体がローコード開発ツールの導入を検討するにあたっては、検討対象とするツールが同規模の自治体でどの程度の導入実績が存在するかが有力な判断材料の一つになる可能性が示された。
 ただし本調査の結果には、次のような限界がある。

        • 1.で述べたように、自治体規模別の導入実績は、ツール選定にあたっての数多くの判断材料の一つに過ぎない。
        • ツールの導入先は、マーケティング戦略や営業戦略、サービスの認知度、ネットワーク等の制約条件等によって時々刻々と変化するものであり、一時的・相対的な情報に過ぎない。
        • 自治体におけるローコード開発はまだ黎明期にあり、現在の導入実績がそれぞれの事例での成功を意味するわけではない。
        • 本調査は、2(1)で示した公開情報のみを用いて行ったものであり、あくまで上記のような傾向が存在する可能性を示したに過ぎない。

 このような限界はあるものの、自治体の規模別の導入実績は、直感的にも理解しやすく、妥当性の高い指標であり、検討の“あたり”をつける上では十分な実用性があると考えられる。
 今後の研究課題としては、本調査結果から得られた知見の実用性を高めていくため、ローコード開発ツールの導入後のミスマッチをもたらし得る要因をより多角的に検討し、明らかにしていくことが挙げられる。この点、筆者が所属する(一社)行政情報システム研究所では、(一社)ガバナンスアーキテクト機構と共同で、「行政機関におけるローコード・ノーコード開発の実践に関する調査研究」を実施している。本調査研究の結果から、上記の課題のいくつかに対する解が得られることを期待している。

 

分析の手順

①対象ツールのサーチ
次のいずれかの条件に該当するツールをウェブサイト検索により抽出した。
• 公式ウェブサイト等で100以上の自治体での導入実績が確認できたもの
• 「ノーコード・カオスマップ2022年8月版」2の「ビジネスアプリ」に分類されており、かつ、公式ウェブサイト等で2以上の自治体での導入実績が確認できたもの
以上の結果、7種類のツールが抽出された。

②導入事例情報の収集
次のいずれかに該当する事例をウェブサイト検索により収集した。
• 対象ツールの提供会社公式サイトにおいて、導入実績として掲載されているもの
• 次のワードでGoogle検索結果の上位100件に含まれた公式情報:『「(対象ツール名)」+「自治体」』、『「(対象ツール名)」+「導入」』、『「(対象ツール名)」+「提供」』

③導入先となる自治体規模別の分類
①、②により収集した事例における導入先自治体を、次の基準により規模別に分類した。
• 大規模自治体:都道府県、政令指定都市
• 中規模自治体:人口10万人以上の自治体(大規模自治体を除く)3
• 小規模自治体:人口10万人未満の自治体3

 

2 https://no-coders-japan.org/nocode-chaosmap-2

3 https://www.e-stat.go.jp/regional-statistics/ssdsview

 

【参考文献】

・安藤昭太、宮崎翼、NoCode Ninja、“ノーコードシフト プログラミングを使わない開発へ”、株式会社インプレス、2021
・NoCode Ninja(森岡修一)、宮崎翼、“基礎から学ぶ ノーコード開発”、株式会社C&R研究所、2021

1/1ページ