当研究所主催の「デジタル・ガバメントDays 2019」が10月7日から 10月10日までの4日間にわたって開催されました。
本講座は、昨年度まで実施しておりました「デジタル・ガバメント講座」の後継イベントです。本年度は⽇本および諸外国の政府・⾃治体等におけるデジタル・ガバメントの取組や課題に関して理解を深め、デジタル時代の⾏政のあり⽅について考える契機とすることを目的として開催いたしました。今回は、開催規模を拡大するとともに、開催日ごとのテーマ設定の特徴をはっきりさせることで、より多くの方と情報共有できるようにいたしました。
【期間】2019年10月7日(月)~ 10日(木) |
以下、詳細をご紹介します。
1日目「世界のデジタル・ガバメントの今とこれから」
我が国および諸外国のデジタル・ガバメントに関する政策や取組について現役の行政官や専門家の方々に講義いただくとともに、公共分野の課題解決に取り組む民間企業3社にご登壇いただき、「テクノロジーで日本の社会課題はどこまで解決できるか?」というテーマでパネルディスカッションを実施しました。
1コマ目 講師:内閣官房IT総合戦略室企画官 帆足氏
日本の取組として本年制定されたデジタル手続法や世界最先端デジタル国家創造宣言の概要をご説明いただきました。
2コマ目 講師:経済産業省商務情報政策局情報技術利用促進課長 瀧島氏
インドが取り組む公共インフラ「India Stack」を中心に、インド政府が目指すデジタルインクルージョンの現状と今後の展望についてご紹介いただきました。
3コマ目 講師:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 常務執行役員 南雲氏
各国から注目を集めているエストニアのデジタル・ガバメントの事例から、人材育成や産業振興、法整備、セイバーセキュリティといった分野で日本が学ぶべき取組について解説いただきました。
4コマ目 講師:デンマーク大使館 投資部部門長 中島氏
中島氏には昨年に引き続きご登壇いただきました。デンマークにおいて、最先端のテクノロジーを利用した社会課題解決の事例を複数ご紹介いただき、公共分野の課題解決に関するヒントを提供いただきました。
5コマ目 パネルディスカッション
パネリスト
株式会社グラファ― 代表取締役CEO 石井氏
株式会社PoliPoli 代表取締役 伊藤氏
株式会社メドレー 事業連携推進室 篠崎氏
モデレータ
中島氏
中島氏のプレゼンテーションに引き続き、テクノロジーで社会課題はどこまで解決できるか?をテーマに、石井氏からは行政手続の効率化、伊藤氏からは政治と市民の結びつき、篠崎氏からは医療における技術の活用といった観点から、社会課題解決のヒントや今後の展望について語っていただきました。
諸外国の事例、パネルディスカッションに登壇された3企業の取組については、社会課題の解決等の明確な目的を定めたうえで、多様なステークホルダーをうまく取り込んで官民一体となって協業するというスタンスで臨んでいる姿勢が印象的であり、日本のデジタル・ガバメントの推進にもつながるヒントがつまった内容でした。
2日目および4日目 エスノグラフィーワークショップ(行政職員対象)
本ワークショップ(WS)のテーマはデザイン思考における「エスノグラフィー(ethnography)」です。WS初日は、講師の一般社団法人Design for Allの後藤真理絵氏にエスノグラフィーの手法について講義を行っていただいたのち、グループごとに街に出て実際に社会で働いている人々を街頭で観察しエスノグラフィーを実践しました。WS二日目は、観察してきた人々をグルーピングしたうえで、そこから得られるインサイトを抽出する作業を行ったうえで、プレゼンとディスカッションを行い、エスノグラフィーに対する理解をより深めていきました。
参加者からは、自分が認識していなかったニーズや感情などを把握するための手法として有用であると感じたといった感想が寄せられていました。
政府におけるデザイン思考に関する取り組みはまだまだ発展途上の段階ですが、こうした手法に触れた職員が増えることにより少しずつ普及していくことが期待されます。当研究所では、デザイン思考の行政への活用の推進に向けて、今後もこのような取り組みを継続していきたいと考えております。
3日目 「デザイン経営」とは何か。-みんなで考えるデザインと経営の新しいカタチ
特許庁では今年度、企業や⾏政機関におけるデザインの活⽤に向けた取組を調査し、デザインの有⽤性についての理解を拡げるため、「我が国のデザイン経営に関する調査研究」を実施しています。 その関連イベントとして、2018年に特許庁および経済産業省が公開した「デザイン経営」 をテーマに、講演とパネルディスカッションを実施しました。
1コマ目:講師 特許庁 意匠課課長補佐 外山様
デザイン経営とは何か。その概要と、実際に特許庁内のプロジェクトで実践した内容をご紹介いただきました。
外山氏講演の模様
2コマ目:講師 IDEO Tokyo デザインディレクター 田仲氏
デザインを企業に取り入れるとはどういうことか?クリエイティブな企業の条件とは何か?といった疑問のヒントや、日本の企業が抱える課題に鑑み実際にデザインを取り入れるために必要な事は何かをお話しいただきました。
田仲氏講演の模様
3コマ目:パネルディスカッション
パネリスト
外山氏、田仲氏、
ヤマハ発動機 デザイン本部フロンティアデザイン部長 田中氏
モデレータ
黒鳥社 若林氏
最初にヤマハ発動機の田中氏から自社におけるデザイン経営の取組を紹介していただいたのち、パネルディスカッションではモデレータの若林恵氏とともに、デザイン経営の意義や促進について、またデザインそのものへの向き合い方について、参加者を交えた白熱した議論が繰り広げられました。以下にSli.doを通じて参加者から寄せられた質問を抜粋して紹介します。
・デザイン思考で語られているのは広義のデザイナー(デザイン的に着想できる経営者)であると思うが、デザイン経営では狭義のデザイナーの役割を高めている気がする。その違和感がまだわからない。
・経営者とデザイナーの双方が理解できる指標は、売上や利益の金額や市場シェアなどの数字以外にどのようなものがあるのか?
・経営のプロではないデザイナーを経営層に入れるべき理由は何なのか?経営層のデザインリテラシーを向上させる方が効果的ではないのか?
田中氏講演の模様
Day3パネルディスカッションの模様(左から若林氏、田中氏、外山氏、田仲氏)
3日目は、広い意味での「デザイン」の活用について、政府が推進する意義、実際に活用している企業の事例を通じて考察を深めました。この日は、幅広い分野の民間企業からの参加があり、デザインの活用についての関心は日に日に増していることが感じられました。まだまだ過渡期といえるデザインの活用ですが、これからどのような事例が出てくるのか、我々も注視したいところです。
おかげさまを持ちまして、デジタル・ガバメントDays 2019を盛況のうちに終えることができました。4日間にわたりご登壇いただいた講師各位、受講者の皆様に改めて御礼申し上げます。当研究所では、デジタル・ガバメントの最新動向に引き続き注目し、セミナーや雑誌、ウェブサイトなどを通じて今後も情報発信を行ってまいります。