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2023.06.10

2023年6月号 連載企画 人間中心の情報システム no.10 データ融合で熟練溶接士の技能伝承へIHI、“デザインガール” のつなぐ力で研究開発を加速

情報システム学会会長
国際大学GLOCOM主幹研究員
砂田 薫

1.はじめに

 日本のものづくりは建設、製造をはじめとする多くの産業において多様な熟練技能者に支えられてきた。しかし、人材不足の解消や技能伝承が重要な課題と認識されるようになってから20年近く過ぎようとしているものの、今日まで根本的な解決には到っていない。それどころか、少子高齢化がますます進み、問題は深刻化する一方である。『2019年版ものづくり白書』によれば、技能伝承に問題があると考える事業所はどの産業でも過半数を超えているが、なかでも製造業はその比率が最も高く86.5%にのぼっているⅰ。
 一般的に、「技能」とは人が長い時間をかけて身体化した暗黙知を主に指し、図面や数式等で表現できる形式知の「技術」とは区別されている。また、熟練者が初心者に教えて技能を伝承していくのも容易ではなく、一度途切れてしまうと復活させるのが難しいという特徴をもつ。ただ、技能と技術は全く別々のものではなく関連性をもつので、習得と伝承の困難さを減らすために技能を技術へと転換する研究が今日さまざまな分野で進みつつある。製造業では技能の定量分析や教育研修でデジタル技術を活用する動きが広がっている。
 1853年創業、売上収益1兆3,529億円という日本を代表する重工業グループである株式会社IHI(代表取締役社長:井手博、本社:東京都江東区)では、溶接工学の専門家が熟練溶接士の技能を分析する研究を続けてきた。また近年、ロボット工学の専門家も研究に加わり、溶接技能のデータ化やロボット化に向けた取り組みも進めている。さらに、この研究開発を加速させたのが総務省事業(令和3年度「課題解決型ローカル5G開発実証」)への参加だった。同社はPwCコンサルティング合同会社、株式会社NTTドコモ、東京大学、株式会社ON BOARD、株式会社NTT PCコミュニケーションズとコンソーシアムを組んで、溶接の遠隔指導の実証実験を行い、その有効性を確認した。
 本稿では、IHIの熟練溶接士の技能伝承に関する研究を通じて人とロボットの関係を考察する。また、同社の研究開発の促進に貢献した「5G・IoTデザインガール」の存在に注目し、人・組織・デジタル技術をつなぐことでイノベーションの推進力を生み出す人材の重要な役割についても紹介したい。

 

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