公的機関による政策や公共サービスの設計・実装のプロセスを変革するため、諸外国・地域の政府・行政機関ではデザイン分野から着想を得た様々なアプローチを導入している。本邦でも、政府が「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に基づくサービスデザインの推進を掲げるなど、政策とデザインの関係に対する関心が高まっている。政策デザインにおけるデザインアプローチとは何か、その導入によって公共部門の変革がどのように進んでいるのか、そして今後の展望はどのように描かれているのかを明らかにし、日本での展開に向けた示唆を得ることを目的として、各国・地域の政策デザイン組織へのインタビュー調査を実施した。本連載では、毎回1つの事例を取り上げて、その内容についてご紹介する。
1.はじめに
最終回となる今回は、台湾デザイン研究院(TDRI)へのインタビュー内容をご紹介する。TDRIは、2004年に設立された「財団法人台湾デザインセンター(TDC)」を前身とする政府系デザイン振興機構である。約15年間にわたりデザインに関する研究成果を産業界に還元する役割を担った後、2020年からは台湾のデザイン分野における強みを生かし産業の発展と経済全体の成長を牽引することを目的に掲げる新たな組織として再出発した。TDCからTDRIへの組織改編は、製造業が経済の根幹であるとの台湾への国際的なイメージを刷新し、クリエイティブ産業とデザイン分野というソフトパワーで国際競争力を高めようとする蔡英文政権の「Designed in Taiwan」の理念に基づくプロジェクトであった。TDRIの公式サイトでは、自らの役割を「幅広い行政機関の公的リソースを『デザインの力』で集約し、デザインを中心的な統治価値として、また国防戦略として推進することを計画しています。当研究院は産業と社会の持続可能な発展を導き、ひいては一般市民の生活の質を向上させることが期待されています。また、国家デザイン政策の策定やガバナンスの効率化において行政院を支援することができます。さらに、統合的な学際的アプローチにより、デザインに基づく考え方を行政に導入し、民間企業の人材育成を促進し、デザイン業界をリードするビジネスを構築していきます。」と説明している(TDRI, 2022)。今回の調査では、TDRIでプロジェクトマネージャーを務めていたChen Yu-Chen氏、Wu Jiun-Yi氏、Cheng Shao-Hung氏にお話を伺った。