1.はじめに
2020年の日本の労働生産性(就業者一人当たりの付加価値)はOECD加盟国38カ国中28位と、データが取得可能な1970年以降最も低い水準となった。長年、生産性の低さはサービス業で問題とされてきたものの、近年は製造業においても楽観視できない状況にある。かつて日本の製造業の労働生産性は1995年と2000年に世界1位を獲得した。ところが、その後は低下傾向に転じ、2018年と2019年はOECD加盟の主要31カ国中いずれも18位にとどまっている。
生産性の問題が突きつけられているのは、日本経済の屋台骨といえる自動車産業も例外ではない。それどころか、とりわけ中小規模の自動車部品製造業にとっては、生産現場の効率化や付加価値の向上が生き残りのために必須の課題となっている。
言うまでもなく、自動車産業は第二次世界大戦後の経済成長を牽引し、GDPの約1割、就業者数で見ても約1割を占める日本の基幹産業である。半導体や家電製品の国際競争力が低下していった中で、自動車は今なお高い競争力を維持している。しかし、市場環境は激変しつつある。「CASE」すなわちConnected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared& Services(カーシェアリングとサービス)、Electric(電気自動車)の進展に伴い、IT企業をはじめとする新規参入が相次ぎ、市場ではゲームチェンジが起こると予想されている。自動車部品製造業も変化への対応が迫られ、DX(デジタル変革)を避けて通ることはできない状況にある。しかも、こうした中長期的な課題に加えて、既存の部品製造における売上高の減少、人材確保の困難さ、さらには電力単価の上昇など直近の課題も重くのしかかっている。
このような厳しい環境にあって、2013年から推進したデジタル変革(DX)によって、生産性の向上と消費電力の削減を達成したのが旭鉄工株式会社(代表取締役社長:木村哲也、本社:愛媛県碧南市)である。1941年創業、売上高150億円、従業員数400名で、トヨタ自動車のティアワン(一次仕入先)として、エンジン、ミッション、シャシー、ボディなど幅広い部品を製造している。同社は「人には付加価値の高い仕事を!」をDXの基本方針に掲げ、人とIoTの連携によって成果を上げた。本稿では、旭鉄工のDXの成功要因となった人間中心の情報システムを紹介する。