1.デンマークの体系を日本社会に実装する
連載企画「デンマーク・デジタル社会の全貌」も9回となった。これまで、北欧デンマーク社会の本質についてデジタル分野を中心に紹介してきた。しかし前職のデンマーク外務省で勤務していた時から考えていたことであるが、本来の目的は単にデジタル化が進んでいるデンマークの事例を伝えることではない。複雑化し不透明な社会を生きていく上で参考となるデンマークの知恵を整理し、日本の歴史や風土、文化に悪影響をもたらさない形で本質部分だけを抽出、それをローカライズして閉塞感に満ちている日本社会に役立つ形で体系化し社会実装することだ。これまで大手企業や地方自治体に可能な限りそのノウハウを共有してきた。小さな一歩ではあるがデンマークのフレームワークを活用する組織や地域が出てきたことは嬉しく思う。
一方、たとえ北欧デンマークの価値体系を日本流に置き換えたとしても、実際はそう簡単に北欧モデルの応用が進展する訳ではない。日本ではスマートシティや行政のデジタル化(行政DX)などにおいて実証実験までは行われるが、その後導入がなかなか進まず市民が目に見える形で先進技術によるサービスの利便性を享受することが十分にできているとは言い難い。そして、現在東南アジアの主要都市とコミュニケーションを続ける中で、アジアはリープフロッグ型発展により今後数年のうちにスマートサービスが普及した社会システムを構築することが予想される。日本の地方もうかうかしていると東南アジア都市の後塵を拝することになりかねない。そこで今回から4回シリーズで、デンマークの知見、経験、ノウハウを日本社会に実装する際の秘訣という視点で紹介しようと思う。もちろん全ての要素を取り上げることはできないが、デジタル化、スマートシティ、カーボンニュートラル社会を構築する上で有用だろうと考えられる体系であり、既に複数の自治体や企業と連携しながら日本への導入を模索しているテーマだ。それは、1)自治体向けサービスデザイン(人間(市民)中心UX)の活用、2)社会システムにおける信頼の構築と運用、3)市民の能動化とスマート化の推進、4)日本型クワトロヘリックスと地域クラスターの創出だ。