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2022.12.10

2022年12月号 トピックス 東京都が進めるデジタル人材の確保・育成

東京都デジタルサービス局戦略部
デジタル推進課長
星埜 航

デジタルシフト推進担当課長
長岡 翔平

1.はじめに

(1)東京都のビジョン、戦略
 東京都は2020年2月、「スマート東京実施戦略」を策定し、東京のDXという挑戦をスタートさせました。
 この戦略を踏まえ、都民が質の高い生活を送ることができる東京版Society 5.0「スマート東京」の実現に向けて、デジタルの力で東京都のポテンシャルを引き出し、サービスの質(Quality of Service)の向上を目指して、3つのアクションを展開しています(図表1)。

図表1 スマート東京実施戦略(3つのアクション)

(出典)「『スマート東京実施戦略』~令和4年度の取組~」1を一部修正

 1つ目が、「電波の道」で、いつでも、誰でも、どこでも、「つながる東京」をつくる「TOKYO Data Highway構想」の取組、2つ目が、行政が有する様々なインフラ・政策にデジタルテクノロジーを取り入れることで、サービスの質を向上する「街のDX」、そして3つ目が、都庁自身をデジタルガバメントへ変貌させるとともに、区市町村の自立的DX支援や都政運営のスピードアップを図る「行政のDX」です。

(2)デジタルサービス局の設立経緯、ミッション
 私たちが所属する「デジタルサービス局」は、都のDX推進における中心的な役割を果たす組織として2021年4月に新設されました。
 発足時の人員数はおよそ200名で、数万人の職員で構成される都庁の中では決して大きな組織ではありません。しかし、DXの推進を旨とする組織が新設されたことに、発足初日を迎えたデジタルサービス局の職員の間には、東京のDX実現という未来への期待と緊張が胸にあふれていたことを記憶しています。
 デジタルサービス局のミッションは、「デジタルを活用した都政のQOS(Quality of Service、以降「QOS」)を飛躍的に向上させる旗振り役・牽引役として、全庁統括機能等を発揮」することにあります2
 このため、当局にはデジタルに関する高度な専門性を有する民間人材が登用されており、また、のちほど詳しくご説明するICT職も集中的に配置されています。

1 https://speakerdeck.com/tokyo_metropolitan_gov_smart_tokyo_strat/sumatodong-jing-shi-shi-zhan-lue-ling-he-4nian-du-falsequ-zu?slide=9
2 「スマート東京実施戦略」~令和4年度の取組~ P.5
https://speakerdeck.com/tokyo_metropolitan_gov_smart_tokyo_strat/sumatodong-jing-shi-shi-zhan-lue-ling-he-4nian-du-falsequ-zu?slide=5

 

2.「東京都デジタル人材確保・育成基本方針」の策定

(1)デジタル化に関する社会的な課題
 昨今、日本のデジタル化の遅れが強く叫ばれています。東京も同様の状況にあり、世界の主要都市と比較すると、デジタル化された行政サービスに対する満足度などで大きく水をあけられています。こうした問題が顕在化したのが、新型コロナウィルス感染症への対応でした。
 こうした都政課題の解決にあたり、デジタルテクノロジーの活用の重要性はますます増大しています。
 一方で、デジタルテクノロジーは進展のスピードが極めて速いことから、これまでのようにシステムを外部事業者に発注し、納品してもらうというだけでは、行政サービスの質をスピーディに向上させていくことが実現困難になってきていると考えています。
 もちろん、すべてのシステムを都が自ら開発するということは決してなく、今後も外部事業者の力を活用しつつ、行政のデジタルサービスを展開していくことになります。
 ただ、行政サービスの顧客にあたる都民の要望を踏まえ、どのようにサービスの質を高めていくのか、ということを都職員自らが考え、スピーディにそのサービスを実装していくためには、デジタルに関する理解を職員自身が深めていくことが、これまで以上に強く求められていると考えています。

(2)基本方針策定の背景と狙い
 よく言われることですが、デジタルはツールであり、それ自体が目的ではありません。東京都がDXを推進していくことの先には、質の高いデジタルサービスを実現することで、都民のQOLを向上させていくという、東京都のミッションがあります。
 では、質の高いデジタルサービスの実現にあたり、必要なことはなんでしょうか。デジタルツールの導入など必要なモノが様々に出てくるのですが、どんなシステムやデジタルツールであっても、それらを使うのは「ひと」であるという点で共通していると、私たちは考えています。
 そこで、今回の基本方針では、DXを進めるために「ひと」をどのように確保し、育成していくのかということについて、東京都としての考え方を整理し、今後の取組の方向性の羅針盤となるものをとりまとめ、お示しすることにしました(図表2)。

図表2 基本方針の位置づけ

(出典)東京都デジタル人材確保・育成基本方針 ver.1.0

 民間において経営戦略と人事戦略が密接に関連し合うのと同じように、私たちの取組も、行政のDX実現という目標と密接に関連させながら展開していければ、と考えています。

 

3.東京都が求めるデジタル人材

 東京都では、デジタル人材を「ICT職」「高度専門人材」「リスキリング人材」の3つに分類して定義しています3
 2021年度に新たに採用を開始したICT職には、「都政とICTをつなぎ、課題解決を図る人材」として都政のDX推進をリードすることが求められています。
 都庁外から登用する、デジタルに関する豊富な知識・経験を有する高度専門人材には、都のデジタルサービスのクオリティ向上を技術面から牽引することが期待されています。
 さらに、ICT職ではない職員については、デジタルテクノロジーに関するリスキリングを行い、デジタルツールを柔軟に業務に活用できるよう育成することで、ICT職や高度専門人材との協働による組織一体となった課題解決につなげることが求められます。
 これらの職員が、都における『デジタル人材』として、連携して能力を発揮することで、QOSの高いデジタルサービスの実現につなげていきます。
 また、上記以外の職員についても、組織全体でデジタルテクノロジーに関する理解を深めることはとても重要です。このため、デジタルリテラシーの向上に向けて育成を図っていきます。

3 東京都デジタル人材確保・育成基本方針 P.11
https://www.digitalservice.metro.tokyo.lg.jp/hr/pdf/001.pdf

 

4.デジタルスキルマップ

(1)デジタルスキルマップ導入の背景と狙い
 ここからは、東京都が独自に開発したデジタルスキルマップ(DSM)についてご紹介します。
 デジタル人材の確保や育成策を考えていく上で、まずは都庁内で「共通言語」を定める必要があると考えました。デジタルの分野では、スキルやジョブの名称が明確に規定されていないものが多いですが、少なくとも都庁内では共通理解ができるように、後述するスキル項目やジョブタイプの名称を定義しました。
 さらに、一人ひとりのスキルレベルやジョブの適性等を可視化し、都庁内のデジタル人材の「現在地」を把握すること。これが、戦略的な人材確保や育成を考えるためのスタート地点だと考えました。
 このような経緯から、スキルやジョブの「共通言語」を定め、そのレベルや適性を可視化する仕組みとしてDSMの開発に至りました。

(2)スキルレベル
 一口に「ICT」や「デジタル」と言っても、アプリケーション、インフラ、デザイン、データ、プロジェクト管理、サイバーセキュリティ等、様々な分野があります。さらに「アプリケーション」といっても、業務システムとスマホアプリとでは求められるスキルが異なります。また、スマホアプリ開発が「できる」という表現にも幅があり、設計から実装まで主体的に「できる」ことと、細かい指示を受ければコーディングが「できる」ことでは、レベルが大きく異なります。
 実際のプロジェクトにおいて、体制や役割を決めてシステム開発を進めていく上では、このような得意分野やレベルが可視化されていることが重要です。
 そこで、DSMでは22のスキル項目を設定し、それぞれレベルを0~3の4段階で評価する枠組みを作りました4

(3)ジョブタイプ
 実際の業務シーンにおいては、単体のスキルだけが求められるケースは少なく、複数のスキルを組み合わせて業務を遂行することが求められます。
 また、一人のデジタル人材に対して22項目ものスキルをすべてレベル3相当へ引き上げるよう求めることは現実的ではなく、優先度の高いものから集中的にスキルアップを図ってほしいと考えています。
 そこで、DSMでは10種類のジョブタイプを設定し、ジョブタイプごとに備えるべきスキルレベルを定義しました(図表3)。さらに、スキルレベルが判定されることで、自動的にジョブタイプの適性(スキル要件の充足度)が可視化される仕組みを構築しました。

図表3 ジョブタイプごとに備えるべきスキルレベル

(出典)東京都デジタル人材確保・育成基本方針 ver.1.0

 

(4)運用フロー
 スキルレベルの判定については、職員自身がスキル項目ごとに業務経験や知識、組織内外での講演実績、資格の保有状況等をフォームに入力し、その内容に応じてレベルを判定する仕組みとなっています。
 これによって職員がもつスキルレベルが可視化されますが、職員がさらなるスキルアップを目指すモチベーションを引き出し、具体的な行動(学び)を起こすところまで促進していきたいと考え、1on1をフローに組み込んでいます。
 1on1の実施にあたっては、DSMにおける1on1を解説したガイドブックの展開や、コーチングの研修等、メンター向けのサポートにも取り組んでいます。

(5)活用イメージと構想
 DSMの具体的な活用イメージをご紹介します。
 マクロ視点では、組織全体としてのデジタルスキル(供給サイド)が可視化されるため、不足しているスキルを保有する高度専門人材の登用や、育成プログラムの重点分野の検討等に活用していきます。さらに今後は、各局から求められるデジタルスキル(需要サイド)の把握も進め、需給ギャップを明確にすることで、より実態に即した戦略的・効果的な確保・育成策につなげていくことを目指しています。
 ミクロ視点では、職員ごとに向上を図るべき分野が可視化されるため、一人ひとりの職員が、個々の状況に応じて、優先度の高い分野から集中的にスキルアップできるような取組を促進していきます。また、プロジェクト単位で必要なスキルを有する人材を洗い出し、必要に応じて配置管理にも活用していきたいと考えています。
 このように、スキルレベルの可視化を足掛かりとして、デジタル人材の確保・育成・配置等に活用し、組織と職員双方の能力向上・パフォーマンス最大化を図る取組(タレントマネジメント)への発展も視野に検討を進めています。

4 東京都デジタル人材確保・育成基本方針 P.19

 

5.東京デジタルアカデミー

(1)東京デジタルアカデミーとは
 東京都はこれまでも、職員のデジタル力向上に向けて、職層別の研修などをはじめとして、様々な育成策を展開してきました。
 しかし、変化の速いデジタルテクノロジーを活用し、自律的にDXを推進していくためには、職員のデジタルに関する能力向上に加え、海外等の先進事例の知見獲得なども求められます。
 また、都民のQOL向上の実現にあたっては、東京全体のQOS向上が必要であり、そのためには同様の課題を抱える区市町村との連携が重要となります。
 こうした取組を一体的に進めることを目的として、東京デジタルアカデミーを新設しました(図表4)。2022年5月に開催した開講式では、小池都知事が出席してキックオフ宣言を行ったほか、宮坂副知事から出席した局長級職員に対して「自ら学び続けよう」「メンバーに学びを促そう」という力強いメッセージを送りました。

図表4 東京デジタルアカデミー(全体像)

(出典)東京都デジタル人材確保・育成基本方針 ver.1.0

 

(2)人材育成の具体策
 東京デジタルアカデミーで展開する人材育成策は、大きく2つに分かれています5
 1つ目は、ICT職向けの育成策で、デジタルスキルのさらなる伸長を図るため、専門研修を拡充するほか、民間企業や海外への研修派遣、コミュニティ構築などを進めていきます。
 その際に大事にしたかったのは、最新のテクノロジーに触れる機会を作っていくことと、職員が互いに学び合う組織風土を作っていくことです。
 専門性の向上にあたり、研修の充実はとても重要ですが、変化の速いデジタルテクノロジーにキャッチアップし、実践的なスキルを身に付けていくためには、民間企業など庁外に積極的にICT職を派遣し、人材の交流を図ることが大切と考えています。
 また、ラーニングコミュニティの構築や職員同士で学ぶスキルアップ勉強会の開催など、学び合いの組織風土づくりにも注力しています。
 2つ目は、全職種向けの育成策で、職員全体のデジタルに関する理解の底上げを図るリテラシー向上のほか、ワークショップ型の研修等を通じてデジタルを使いこなすことのできる人材を育成するリスキリングを進めていきます。
 まず、リテラシー向上については、新規採用職員向け研修をはじめとする職層別研修や、様々な主体でDX推進に取り組まれている方をお招きする都庁デジタルセミナーの開催に加え、今年度からは新たに、マイクロラーニングの手法を取り入れたe-ラーニングの環境を整え、すべての職員が時間と場所の制約なくデジタルに関する学びをスタートさせています。
 次に、リスキリングについては、ノーコード/ローコードツールの活用などを進めるワークショップ型研修として、様々な研修を実施しています。例えば、「デジタルシフト推進リーダー養成研修」では、参加職員が半年程度、同じメンバーでグループワークを行い、事務の改善策などを話し合うほか、デジタルツールを用いて、実際に何ができるか、意見交換を進めながら最終的にグループとしての発表をまとめています。このように、リスキリング研修では、受動的な学びだけではなく、能動的な学びにも力を入れています。

(3)今後の展望
 すでにご説明したように、東京デジタルアカデミーは、都職員の人材育成だけでなく、「先進事例の調査・分析」と「区市町村連携」を加えた3つの柱で構成されています。
 特に、区市町村については、多くの団体においてデジタル人材の育成に困難さを感じており、区市町村職員向けの育成策の拡充は極めて重要と考えています。
すでに、区市町村職員を対象とする勉強会の開催を進めており、今後は、都職員向け研修コンテンツを区市町村職員にも横展開していくなど、その取組を拡充していきます。
 また、東京デジタルアカデミーとして、3つの柱の取組を有機的につなげていくためにも、アカデミーで学ぶ職員の「学びの場」づくりも重要です。デジタルを学ぶ職員が相互にやり取りし、学びを深めていく仕組みを構築していければ、と考えています。

5 東京都デジタル人材確保・育成基本方針 P.35

 

6.おわりに

 DXの推進が社会全体で重要視される中、デジタル人材をいかに確保し、育成するかということに対する関心が、これまでになく高まっています。
 また、日本社会に広がっているメンバーシップ型雇用をジョブ型雇用へ見直していく、といった動きも見られるように、これまでの働き方が大きく見直される「うねり」が起きつつあると考えられます。
 私たちが「東京都デジタル人材確保・育成基本方針」を公表して以降、ありがたいことに様々な方面からお問い合わせをいただき、多数の意見交換の機会をいただきました。
 ただ、この基本方針で示すことのできた内容はまだまだ解像度は粗く、取組をどう具体化していくか、趣旨を組織にどう浸透させていくかなど、課題は山積しています。
 また、区市町村との関係についても、育成策に限らず幅広く連携を深めていくことが重要と考えていますし、都外の自治体とも積極的に情報交換させていただきたいと考えています。
 今後、本基本方針に盛り込んだ取組を着実に実施していくとともに、その内容をブラッシュアップさせ、東京都のDX推進を支える人材づくりを強力に推し進めていきます。

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