公的機関による政策や公共サービスの設計・実装のプロセスを変革するため、諸外国・地域の政府・行政機関ではデザイン分野から着想を得た様々なアプローチを導入している。本邦でも、政府が「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に基づくサービスデザインの推進を掲げるなど、政策とデザインの関係に対する関心が高まっている。政策デザインにおけるデザインアプローチとは何か、その導入によって公共部門の変革がどのように進んでいるのか、そして今後の展望はどのように描かれているのかを明らかにし、日本での展開に向けた示唆を得ることを目的として、各国・地域の政策デザイン組織へのインタビュー調査を実施した。本連載では、毎回1つの事例を取り上げて、その内容についてご紹介する。
1.はじめに
第4回は、チリ政府の政策デザイン組織「ガバメントラボ」(Laboratorio de Gobierno)でエグゼクティブ・ディレクターを務めるローマン・ジョセフ(Roman Yosif)氏に対して実施したインタビュー内容をご紹介する。 2015年に設立されたガバメントラボは、より良い公共サービスの設計、公務員のイノベーション能力の開発、国家の重要課題の解決に向けた民間人材の登用を担う機関である。2015年から2017年まではイノベーション創出のための様々な方法やツールを試行し、チリ政府の文脈に適したモデルの検討に取り組んだ。この期間に得られた知見に基づいて、2018年以降はラボのサービスモデルとガバナンスを大きく変更し、活動領域を広げた。これまでに健康や教育、オープンガバメント等の分野で50以上のイノベーションプロジェクトに着手し成果を挙げている(Laboratorio de Gobierno, 2021)。ジョセフ氏はチリ大学で経営工学を学んだ後にメキシコの金融機関で勤務し、帰国して複数の企業を設立し活動していた。その際、新設されるガバメントラボのマネージャー職の求人に応募し、組織の立ち上げから参画してきた。ラボの体制が一新された2018年より、現職に就いている。