1.はじめに
大阪府・大阪市万博推進局は、府・市の共同設置組織として2022年1月1日に設置されました。当局では博覧会協会や国、経済界と連携しながら、国家プロジェクトである2025年大阪・関西万博の成功に向け、地元パビリオンの出展をはじめとした様々な施策を推進しています。
2022年7月18日には、万博開催1,000日前を迎え、万博の開催準備も本格化してきました。こうした中、万博会場に世界中から多くの方に足を運んでいただけるよう、開催前から大阪の魅力をひろく国内外に発信していくため、昨年度から都市連動型メタバース「バーチャル大阪」の構築を進めています。
本記事では、「バーチャル大阪」がどういったものか、その内容や、これまでの経過、今後の展望等をご紹介します。
2.「バーチャル大阪」とは
「バーチャル大阪」とは、大阪の都市魅力を国内外に発信し、万博への期待感を高めるとともに、“City of Emergence”(創発する都市)をテーマに、様々な人が集まり、一人ひとりの新たな体験や表現を通じ、大阪の新たな文化の創出・コミュニティの形成に寄与することもめざす都市連動型メタバースです。
昨今では、「Facebook」が社名を「Meta」とするなど、「メタバース」という言葉を耳にしない日はないというくらい世界的にメタバースの注目度は高くなっています。「メタバース」とは、meta(=超越、超)とuniverse(=宇宙)を組み合わせた造語です。インターネット上に構築された仮想空間に誰もがアバターとなりインクルーシブに参加でき、他のアバターと交流等ができます。また様々なコンテンツを通じ、没入感を味わいながら、街の周遊やその場にいるかのような疑似体験ができます。ここがインターネットサイトとは違う点であり、メタバースの強みであると認識しています。
さらに、バーチャル空間と実在する都市である大阪が相互に連動する「都市連動型」という部分も大事にしていきたいと考えています。バーチャル空間内で完結する体験だけでなく、バーチャル空間で買い物したものが自宅に届いたり、リアルの街に存在する劇場やスタジアム等と連携・連動したイベント等を展開したりといった、バーチャル空間での活動がリアルの街や生活にも影響を及ぼすような仕組みをつくっていければと思っています。
こうしたメタバースの強みや特徴を活かしながら大阪の様々な魅力を効果的に発信するとともに、アバター同士の交流や共創の場にもしていくことを目的に、2021年度、大阪府・大阪市のプロジェクトとして都市連動型メタバース「バーチャル大阪」は誕生しました。
「バーチャル大阪」は、バーチャルプラットフォームアプリ「cluster」上に構築されたバーチャル空間です。現在は、70年万博の象徴でもある太陽の塔のあるエントランスエリア(写真1)をハブとして、2025年大阪・関西万博へ出展予定の地元パビリオンである大阪パビリオンや大阪府・市の施策をPR・発信する「大阪府・大阪市コンテンツ」エリア、大阪市内をモチーフとした「新市街」エリアという空間構成にしています(図表2)。また渋谷5Gエンターテイメントプロジェクトが運営する「バーチャル渋谷」1へもワープできるようにしています。今後、北摂、河内、泉州といった府内の他エリアも順次開設を予定しています。
1 https://vcity.au5g.jp/shibuya
図表1 「バーチャル大阪」へのアクセス方法
バーチャル大阪公式サイト:https://www.virtualosaka.jp/
(出典)筆者作成
写真1 バーチャル大阪 エントランスエリア
(出典)KDDI共同企業体(バーチャル大阪公式サイト)
図表2 現在の「バーチャル大阪」のエリアマップ ※寄稿時点
(出典)KDDI共同企業体(バーチャル大阪公式サイト)
3.構築までの経過と制度設計
(1)構想から検討開始まで
次に、「バーチャル大阪」の検討を進めるに至った背景を説明します。2025年大阪・関西万博への、大阪府・市のパビリオンの出展検討に際し、2019年12月に設置した有識者懇話会において委員の一人だった佐久間洋司氏2から①大阪・関西万博を見据えた機運醸成(=国内外への都市魅力の発信)、②大阪パビリオンのコンテンツに対応したバーチャル展開(=バーチャルパビリオンの開設)に向けてバーチャルプラットフォームをつくってはどうかと提案いただきました。これを受け、「バーチャル大阪」の検討が本格的に始まりました。
人工知能や仮想現実に関する研究者である佐久間氏からは、後述する「大阪全域をカバーするための各エリアの抽象化」や「ユーザーが主体的にコンテンツを投稿してコンテンツが広がる仕組み(=UGC3)」などのアイデアが出されました。「バーチャル大阪」にそれらのコンテンツが集まっていくことで、「新しい大阪の魅力が“創発”する」「バーチャルからリアルの大阪まで魅力が“続発”する」といったアイデアも参考にしながら、「バーチャル大阪」のイメージ、めざす姿を少しずつ形づくっていきました(“創発”や“続発”は、佐久間氏が研究に応用している用語から発想されたものです。)。他にも、アバターを用いた自己表現の機会を提供し、創作に参加しているという「自分ごと化」を実現するアイデアなどが取り入れられています。
(2)公募の実施まで
バーチャル大阪の制作・運営を担う事業者公募の実施に向け、佐久間氏とともに関連する企業等や専門家にヒアリングのうえ、必要とする要件、求める水準、仕様書の内容等を詳細に検討しました。そのうえで2021年7月に、“バーチャルプラットフォームの構築”と“バーチャルプラットフォームの運営”という二つの柱からなる「バーチャル空間における大阪の魅力発信・創造等に関する業務」として、プロポーザル方式での公募を実施しました。
公募に際し、魅力あるメタバースにしていくために「バーチャル大阪」構築後の運営をどうしていくかという点は大きな課題でしたが、役所主導ではなく“民間主導の創意工夫を活かした運営”をめざすこととしました。そして「バーチャル大阪」を運営する民間での組織体(=コンソーシアム)をつくってもらい、その組織体が長期的・継続的な自走型の運営を行うことを事業者公募時点での必須要件としました。予算単年度主義の行政において、翌年度以降の運営に関しても要件を付したうえで公募する事例は非常にレアケースだと思いますが、当初からの最大の課題はこのように対応することで一定クリアすることができました。
また、バーチャルプラットフォームの構築にあたっては、前述の“民間主導の創意工夫を活かした運営”を意識し、より民間事業者が柔軟に対応・展開できるようにしました。例えば、現在の「バーチャル大阪」がバーチャルプラットフォームアプリ「cluster」上に構築されているように、プラットフォームに関する要件は、「既存のプラットフォーム上に新規のプラットフォームを構築するプラットフォーム・オン・プラットフォームの形式でバーチャル空間を提供することも妨げない」としました。また開設するバーチャル空間も、エリアの数やその範囲を特定することなく、「3Dモデリングされたメイン会場やイベント会場、大阪の観光地・都市空間など、複数のバーチャル空間(コンテンツ)を制作、提供する」とすることで、事業者による選択・提案の幅を持たせた形にしました。
(3)一般公開まで
公募の結果、2021年8月に最優秀提案事業者としてKDDI共同企業体を選定しました。それ以降は定期的にミーティングを行いながら、コンセプトやエリア構成、空間やアバターのデザインから立ち上げ時の全体イメージまで、様々な議論を重ねてきました。
特にエリア構成については、佐久間氏主導のもと、その検討に多くの時間を割きました。近年ではリアルな世界を忠実にバーチャル上に再現する「デジタルツイン」という言葉をよく耳にします。ただ街を細部までリアルに再現する方法は、Googleマップとどう違うのか、エンターテインメント性の観点でどうなのかといった疑問もありました。
この点については、アニメ映画「ベイマックス」に出てくる架空の都市、「サンフランソウキョウ」をヒントにしました。この都市には、東京とサンフランシスコのどちらに住む人が見ても、ここは自分の街だと錯覚するような抽象化が施されています。大阪でも各地域のエッセンスを抽出して再構成することで、コンパクトに府内全域を再現する空間ができるのではないか。また府域全域を網羅的にバーチャル化するのは到底困難であるものの、府民や大阪がふるさとの方が「バーチャル大阪」に訪れた時に、「あぁ、ここは自分の街だ」と実感してもらえるような空間にできるのではないかと考えました。このため、ある一エリアのみをスポット的にバーチャル化するのではなく、大阪府域を大阪市内・北摂・河内・泉州と大きく4つのエリアに分け、それぞれの地域の特色を捉えつつ、全体を抽象化した空間とすることで、府域全域をカバーするようなエリア構成としました(図表3)。
図表3 「 バーチャル大阪」空間構成イメージ
(出典)KDDI共同企業体
こうしたエリア構成の方向性のもとエリアの制作を進めつつ、2021年11月末には、「バーチャル大阪」公式WEBサイトを開設しました。そして12月には一部エリアとして、太陽の塔のあるエントランスエリアを先行的にプレオープンし、人気番組である「M-1グランプリ2021」と連携したイベントをバーチャル上で開催しました(写真2)。このイベントは、バーチャルプラットフォームアプリ「cluster」で実際されたイベントの中で、過去最高の来場者数を記録することができました。
写真2 「M-1グランプリ2021」連携イベントの様子
(出典)KDDI共同企業体
2022年2月には初の都市エリアとして、大阪市内をモチーフとした「新市街」エリア(写真3)を新たに開設し、順次エリアを拡張しているところです(北摂や河内、泉州地域をモチーフとしたエリアも、今後開設を予定しています。)。
写真3 大阪市内をモチーフとした「新市街」エリア(左)KV(中)大阪城など(右)スカイビル
(出典)KDDI共同企業体
2 現在は大阪大学グローバルイニシアティブ機構招へい研究員であり、バーチャル大阪の監修を担当
3 ユーザー生成コンテンツ。4章にて説明。
4.今後の展開
前述のとおり、「バーチャル大阪」は、イニシャルコストとして1年間だけ公費を投入し、そのあとは民間のコンソーシアムで自立自走して街を運営し拡大していってもらうという、公民連携による挑戦的なプロジェクトです。その成功のカギを握るのは、今後どのようにして魅力的なコンテンツを展開していくかであると認識しています。コンソーシアムには自由度のある運営をお任せすることで、民間事業者の自由な発想により、わくわくするような、毎日訪れてみたいと思うようなコンテンツを続々と充実させていき、常態的にユーザーがアバターとなってそこに集まる、そんな空間にしていく必要があります。
現在、「バーチャル大阪」は、昨年度の受託事業者であるKDDI共同企業体が代表主幹事となり立ち上げたコンソーシアム「未来大阪プロジェクト」による運営をスタートしており、コンソーシアム参画企業も順次拡大していこうとしているところです。大阪の文化でもある芸能やエンタメ性、ゲーム性あふれる魅力的なコンテンツを今後、コンソーシアム参画企業から続々と展開することで、街の賑わい創出や活性化につなげていきたいと考えています。
また「バーチャル大阪」は、都道府県レベルの自治体で都市全体をバーチャル化したプラットフォームを構築し、コンテンツ等を展開・発信する事例としては、全国初の取組みでもあります。大阪は中小企業の街でもあり、「やってみなはれ」という言葉に代表される、まずは挑戦してみようという新進気鋭の風土があります。「バーチャル大阪」についても、まずは挑戦的・先行的に取り組んでみようと始めたものですが、今後自治体によるメタバースを活用した地域の魅力発信といった取組みは増えてくるのではないかと考えています。コロナ禍が長期化すれば、リアルの場での発信の機会も奪われ、そのような動きもより加速化するでしょう。
そういった中、メタバース群雄割拠の時代においても「バーチャル大阪」が埋没しないよう、「バーチャル大阪」にしかない魅力・強みを磨いていく必要があります。この点について、「バーチャル大阪」の今後の核の一つと考えているのが「UGC」です。「UGC」とは“User Generated Contents”の略で、ユーザーにより生成・制作されたコンテンツのことを言います。アバターとなったユーザーが主役・表現者となり、「バーチャル大阪」を舞台に路上ライブやフリーマーケットのような出店、3Dオブジェクト制作や映像配信等を可能とするUGC機能を、今後実装する予定です。
さらにその先には、例えば、実際の街なかにあるカラオケ店で歌を歌うと、「バーチャル大阪」の街で路上ライブができるといったように、リアルと連動した体験も提供していければと考えています。
前述したような、リアルの街を抽象化し、単なるデジタルツインではない「バーチャル大阪」にしかない新しい大阪の街とした点や、UGC機能の実装によりユーザー自らがコンテンツ提供者となり「バーチャル大阪」を表現の場として、他のユーザーに楽しんでもらうことで、ユーザー同士の交流や新たな文化の創出にもつながる。そんなこれまでにない参加型のメタバースとして、ここでしか味わえない体験価値を生み出して集客力強化につなげていきたいと思っています。
5.おわりに
現在コロナ禍により人流を制限することも多く、なかなか大阪に来ることができない方も多くおられます。その点、バーチャル、メタバースの世界は、誰もがインクルーシブに、いつでもどこでもアクセスできるという強みがあります。未来社会の実験場となる2025年大阪・関西万博に向け、万博の期待感が高まるようなわくわくするコンテンツを展開していければと考えていますので、大阪に来たことがある方もない方も、「バーチャル大阪」という新しい街でぜひ大阪の魅力を感じていただければと思っています。
また、万博に向け大阪の魅力を発信し、盛り上げていくこの「バーチャル大阪」に完成という概念は存在しません。今後もエリアの拡張やコンテンツの展開を通じ、みんなでつくりあげていく共創の場として進化し続ける街となります。万博が開催される2025年にこの「バーチャル大阪」がどんな街になっているか、私自身非常に楽しみです。
2025年になって、万博会場に来られた方が「バーチャル大阪で大阪の魅力に触れ、実際に大阪に来てみたんだよ」と言ってもらえるようになったら、うれしいですね。