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2021.10.19

外務省DX推進計画の目指すもの(1/3)

外務省 事務次官
 森 健良

構成・文/内田 伸一

政府におけるデジタル化の取組が加速するなか、外務省でもDX推進計画が進んでいる。同省では世界各国にある在外公館と連携して情報収集・分析を行い、行政サービスとして旅券や各種証明書を発給する領事業務も担う。いずれの業務にもデジタル化は大きく貢献し得る一方、機密情報を扱う上でセキュリティ確保がひときわ重要であり、加えてコロナ禍でのテレワーク推進も急務となった。今年初夏に省内で今後5か年のDX推進計画を策定し、新設のDX推進チームが始動している。その目指すところについて、指揮を執るリーダーから最前線のスタッフまで、キーパーソンにお話を伺った。

 

【目次】
1.外交の要諦である「人」が活きるDX
2.国民サービス向上、外交力強化のために
3.外務省DX5か年計画

 

1.外交の要諦である「人」が活きるDX

今年5月、外務省では全省員に向けたメッセージ「デジタル化推進による外交力強化~私たちの5年後のビジョン~」が発出され、これを受けたDX推進体制が本格的に発足・始動した。政府全体でデジタル化が推進される中、外務省はDXを通じて何を目指すのか。まずはその骨子を外務省 業務改善推進本部長である森健良 事務次官に伺った。

:私は、今後の国際環境の変化は、戦後の日本が経験したことのない激しさと深さで、そしてかつてないスピードで到来すると考えています。こうしたなかで、外務省の仕事の仕方を抜本的に変えなければ、世界の早い流れに取り残されてしまうという危機感を持っています。AI、5G等のデジタル技術は急速に発達・普及しており、コロナ禍の需要拡大でさらにそのスピードは増しています。急速なデジタル化は、オンライン外交の活発化をもたらす一方、電力施設へのサイバー攻撃やフェイクニュースによる他国の選挙への干渉等、社会や国際関係(外交)に大きなインパクトをもたらしています。

政府の重要課題の一つでありデジタル庁の発足が示している「行政のデジタル化」、業務合理化を通じた働き方改革と女性の更なる活躍推進、多様性の受容等は、時代の要請です。これらの課題にスピード感をもって取り組み、長時間労働に代表される前時代的、非効率なモデルから脱却し、若者の霞が関離れを食い止めなければなりません。特に外務省は、外国政府や各国にある在外公館とのコミュニケーションといった他の官庁とは異なる側面があるので、自ら考え、改革を推進していく必要が高いと思います。職員の日々の努力を一層効果的に結果につなげるための体制を構築し、国益を増進することは、私の最優先課題の一つです。職員一人一人の主体的な取組を求めつつ、外務省のDXを中心とする改革に本気で取り組む覚悟です。

 

写真 インタビューに答える森氏

(出典)外務省提供

 

外務省は改称せずに現存する日本最古の行政機関であり、中央官庁が集中する現在の霞が関において最も古くから同地に置かれてきた。しかし一方で、その省務の特性からもデジタル化にひときわ意欲的であるという事実は興味深い。森氏はその際、DXの本質はそれによって「人を活かす」ことだと強調する。

:まず、外交の要諦は「人」である、というのが私の基本的な考えです。国と国との関係も最後は「人」、相手を動かすのは情熱と共感であり、デジタル技術が「人」を完全に代替することはできません。他方、グローバルな規模で膨大な情報が溢れ、日々激変する世界において、外務省員一人一人の業務量は急増しています。AI等の先端技術を含めデジタル化により外交力を強化するのと同時に、従来「人」が担ってきた業務を順次可能なものからデジタル化・合理化し、組織として、限られた資源(人材、予算、時間)を「人」にしかできない外交活動に集中させることが、厳しい国際社会を生き抜く上で必要不可欠です。また、デジタル化・合理化を通じた超過勤務の縮減、テレワークなど多様な働き方を尊重する職場環境を整備することで、職員一人一人の福利厚生の向上・ワークライフバランスの改善に積極的に取り組み、個々の能力を最大限に引き出す必要があります。それが結果として、職場としての魅力を向上させ、優秀な人材確保と離職率改善の「好循環」の実現につながると考えます。

外務省の具体的な取組をいくつか紹介します。業務改革の在り方とそれを技術的に支えるDXは、いわば車の両輪です。私は、外務省の業務改革・デジタル化を進めるためのいわば司令塔のような役割を担う「業務改善推進本部」の本部長を務めていますが、業務改革・DX推進にあたっては、省内の幅広い意見、特にこれからの外務省を担う若手職員の意見を大切にしたいと考えています。実際、現在若手職員約20名の有志によるタスクフォースが立ち上がり様々な改革を進めていますが、このような取組を最大限応援したいと考えています。こうした体制の下、5月に「デジタル化推進による外交力強化~私たちの5年後のビジョン~」と題するDX推進のビジョンを策定し、全職員に周知しました。また、こういった取組を技術的に支える観点から、外部人材も採用してIT専門家からなる「DXサポートチーム」を新設しました。さらに、業務改革・DXを進めていくため、全職員が自由にアイデアを提案できる意見箱も設置し、幅広い意見を吸い上げるようにしました。このように、省全体に「横串」をさす改革を強化しつつ、最近の新たな取組として、大臣官房を手始めに個別の課室に焦点を当てた個別・具体的な業務改革を深掘りする、いわば「縦串」の改革にも着手したところです。

DXが世代や所属などの違いを越えた業務改革の原動力となり、さらにはそれが官庁としての行政力を底上げするという、いわば「活人DX」が森氏と外務省の目指すものだと言えよう。

:日本は国際社会の主要国の一つであり、自由で開かれた国際秩序の維持・強化を通じ、日本のみならず世界の平和と繁栄のために汗をかく責任と能力があります。そのための外務省のデジタル化・合理化を通じた外交力の強化は待ったなしです。日本がポスト・コロナの世界をリードしていけるよう、引き続き全力で取り組みたいと思います。

 

森 健良(もり たけお)
外務事務次官
東京大学法学部卒業ののち外務省入省。国際法局条約課長、北米局北米1課長、総合外交政策局安全保障政策課長、同局総務課長、在米日本大使館公使、大臣官房審議官兼経済局(大使)、北米局長、外務審議官(政務)などを経て2021年6月から外務事務次官。

 

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