1.はじめに
1991年に独立した国家となって以来、約30年近くの歴史を持つウクライナは、エストニアがデジタル・ガバメントの先進国としてしばしば紹介されるのに比べ、これまで取り上げられる機会は少なかった。これは、国連の電子政府ランキングにも表れているように、同国が他のバルト諸国に比べてデジタル・ガバメントの取組が発展途上であったことによる(※1)。
しかし、同国ではエストニアの経験に着想を得て、むしろ従来の枠に捉われない思い切った取組が行えるという状況を活かし、新たなデジタル・ガバメントの方向性として、スマートフォンを活用したデジタル・ガバメントの推進に向けた戦略を策定し取組を進めている。また、同国からは多くのエンジニアが輩出しており、彼らが様々なプロダクトを生み出すなど、今後のデジタル・ガバメントの発展に向けた高いポテンシャルを有している。
本稿では、同国の取組について、デジタルサービスの構築及び導入において中心的な役割を担っているデジタルトランスフォーメーション省のムスチスラフ・セルギョヴィチ・バニク氏へのヒアリングをもとに紹介する。
(※1)2020年の国連電子政府ランキングではウクライナは69位となっており、エストニア(3位)、カザフスタン(29位)、ベラルーシ(40位)などに比べて低位に留まっている。
ムスチスラフ・セルギョヴィチ・バニク(Mstyslav Serhiiovych Banik) ウクライナ政府デジタルトランスフォーメーション省eサービス開発局ディレクター複数の民間企業においてマーケティング、ウェブリソース管理、顧客コミュニケーションに関するマネジメントに従事。2019年より、同省において、副首相へのアドバイザーに就任するとともに、国民向けモバイルアプリケーションプロジェクトDiiaのマネージャを務める。2020年より現職。 |