機関誌記事(記事単位)

無償

2020.10.09

2020年10月号特集 「生態系」としてのデジタル・ ガバメントとDX推進

前内閣府副大臣 衆議院議員(東京4区) 平 将明
取材・構成/内田 伸一

デジタル・ガバメントやDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性・有用性が議論されるようになって久しいが、その導入現場においては課題も多く聞かれる。「今回の新型コロナ禍はそうした課題を露呈させた一面もある」と語り、同時に「デジタル遷都」を提唱するのが、政府のデジタルトランスフォーメーションに取り組んできた平将明 内閣府副大臣(当時)だ。民間企業出身で、自由民主党ネットメディア局長なども務める同氏に、デジタル・ガバメントとDXのこれからに向けて実践されるべきこと、またその根底にある課題意識や信念について伺った。

政界入り以降、提唱し続けてきたICT化

私は2005年に政界入りする以前、家業であった青果市場の仲卸業者として会社経営をしていました。パソコンは最新機種でこそないものの、ごく普通にITの恩恵も活用する環境です。また、理事長をしていた東京青年会議所では2000年にペーパーレス化を実現していました。これらが当たり前という感覚で政治の世界に入ったところ、率直に言えば、デジタル化が遅れていることを各所で感じました。
そこで、当選後は所属政党内(自由民主党)でも色々とITの導入・活用を試みました。たとえば党の総裁選は現状、往復はがきによる投票ですが、これをネット投票で実現できないか。制度設計は必要ですが、例えば、ネット上に投票ページを用意し、そのQRコードを配布するだけで技術的には実現はできそうです。また党員募集も、担当者が直に歩き回って判子を押してもらい集めてくる仕組みから、希望者がネット上で登録完了できないか、など。ネットに馴れ親しんだ若手議員が賛同してくれる一方、より上の世代では異なる意見もあるのですが、双方の声を聞きながら、継続して取り組みたい分野です。
国会では昨年初めて、平井卓也 IT政策担当大臣(当時。現デジタル改革担当大臣)がタブレット端末を使って答弁したことがニュースにもなりました。当時、私は委員会の運営を協議する衆議院の内閣委員会の理事を務め、国会のルール上でもこうしたことを可能にすべきだと与野党各位に提案を続けてきたことがこれにつながった形です。ただ、このときは通信につなげることは、野党の方々の慎重姿勢もあって実現に至りませんでした。答弁側が検索に頼らず、きちんと理解しているかどうかを質したいということでしょう。しかし、国民が本当に望むのはクオリティの高い質疑応答であり、検索できるレベルの情報はむしろ積極的に活用すれば良いと私は考えます。これは今も課題として残っています。
関連して、国会に総理大臣や大臣が直接出席せねばならない縛りによって、重要な国際会議に日本の閣僚が出席できないケースも多い。私は、そうであればテレビ会議システムでの国会参加も検討すべきだと思います。本人確認の問題を解決できれば良いわけで、現在、運用や技術で解決可能です。これは憲法上、国会に呼ばれれば直に参加しなければいけない、という規定に抵触するとの意見もあります。しかし、憲法ができた当時と現代では、テクノロジー環境も著しく変化しました。ですから、この点は国会への出席をめぐる解釈を調整することで、解決できるのではと考えています。
他方、政治の世界において、積極的なICT活用意識がなかなか高まりにくい背景には、情報流出やサイバー攻撃のリスクを、常に最大限警戒する必要があるという現実もあります。実際、私も過去に標的型メールで攻撃された経験があります。運よく早期に気づいて被害もなく済みましたが、こうしたこともあるので、慎重にならざるを得ないわけです。サイバーセキュリティの重要性は民間でも同様ですが、政府はより慎重であるべきでしょうし、個々の政治家もそうあるべきでしょう。ガバナンス上、それぞれが個人のリテラシーでパソコンなどを活用し、役所と連絡を取り合っていますが、そこが脆弱なポイントになってはいけない。一人ひとりの政治家にも、サイバーセキュリティへの高い意識が求められる時代と言えるでしょう。


取材に答える平将明 内閣府副大臣(当時)(AIS撮影)

「コロナ対応」ではなく、本来変わるべきだったことを進める

一方、そうした制約や課題があるにせよ、行政におけるICT活用は一層必要性が高まっている課題であることに変わりはありません。今回の新型コロナ禍は、デジタル・ガバメントやDXの推進がまだ道半ばであることを顕在化させたとも感じています。たとえば私はマイナンバーカードについて、デジタル・ガバメントの導入と活用における、国民一人ひとりに対するきめ細かい対応を実現するために有効な制度だと考えます。しかしこのカードは5年前にできたものの、普及率が思ったようには上がりませんでした。そして、これを含む様々な要因から、今回のコロナ禍で対応しなければいけない緊急支援などの局面において、色々な「目詰まり」が生じたことも否めないでしょう。
つまり、コロナ禍の発生で社会が180度変わったというよりも、本来進めておくべきだったことが顕在化したのが現在だととらえています。だからこそ、デジタル・ガバメントやDXをさらにスピードアップして進めねばなりません。まず、企業など民間側がデジタル化を進める中で、パブリック(行政)の側がアナログのままだと全体の生態系の足を引っ張るので、これだけは避けたい。政府やパブリックセクターの側が、民間とも足並みを揃えてデジタル化していくことが重要です。
もうひとつは、リスク管理の観点からデジタル・ガバメント化を進めていくことの重要性です。コロナのみならず、今後さらに新たなウイルスが現れる可能性も否定できず、いつ起きるかわからない自然災害のリスクもあります。そうした際も、様々な支援や政策を打ち出し、必要な人に向け必要なタイミングで実行できる環境整備が急務です。地球温暖化で台風が大型化する「スーパー台風」や、首都直下型地震などのリスクなどにも備えが必要でしょう。
そうした危機に遭遇した場合も、政府は機能し続け、国民を支え続けなくてはいけない。今後、この点でもデジタル化は一層重要な鍵になるはずです。

行政のデジタル化推進に向けた課題

構造的課題としては、省ごとに縦割りでICTシステムが整備されてきたことが、スムーズな連携の障壁になっている側面もあります。たとえば政府内で横断的なテレビ会議を開こうと考えた際も、こうした課題は生じるでしょう。また、非常時の給付金や保健所対応などにおいては、現場は各自治体が管轄し、そこに都道府県、さらに政府が連携するという関係性になります。従来、その間の連絡をファクスなどで行っていたところも多く、これが連携の遅延や混乱の一因となるケースもある。これは重要な情報を行政側がリアルタイムに共有・掌握できない、という事態を生じさせ得ます。いわゆる「縦割り」状況に新たな横軸を貫くには、政治力も含め様々な努力が必要ですが、皆でそれを意識し、かつ目指すビジョンを共有することで克服すべき課題でしょう。
私がもうひとつ課題だと考えるのは、政府にも民間企業が持つ「顧客満足」の発想があっていいのではということです。たとえば国民に10万円の給付金をお渡しする場合なども、その制度の利用者は、民間企業でいえば「お客様」です。市区町村、都道府県、国、それぞれの縦割り・横割りの影響でサービスや支援に不具合が生じたとき、民間企業であれば、いかに迅速に改善し、利用者の利便性を高めるかを重視します。それこそICTがこれだけ普及して多様なサービスが溢れる中で、競って顧客満足度をどう上げ、インタフェースをどう向上するか、エクスペリエンスの質をいかに高めるかということを日々やっている。全く同じようにとは言わないまでも、政府や行政にもそういう発想がないと「なぜこんなに不便で、時間がかかるのか」ということにもなりかねません。
ただし、これは単純にICTを導入するだけで解決する話ではないのです。政府がそのためのルールを作ることは当然のこと、都道府県や自治体にも協力していただかなければ実現できない。組織や仕事の構造も、その運用方法も、適宜変えていく必要があるでしょう。そして、なぜそうまでしてデジタル化を推進するのかということを考える際に最重視すべきなのは「利用者のために」という視点です。連携する各組織間でこの視点をしっかり共有することが、意義あるデジタル・ガバメント化を進める上では重要でしょう。

政府にできる社会のICT活用推進支援

社会全体の暮らしや、民間企業の活動において政府がDXを後押しする役割を担える可能性もあります。今回のコロナ禍では、各企業が社員の在宅勤務も認める状況下で、しかし判子を押すためだけに出勤しなければいけないケースも、少なからず見られました。しかし、これも電子認証などデジタルで代用できる部分があり、今後はセキュリティレベルによる分類などを含めて、しっかり整理したいと考えています。現在、経済産業省、法務省と内閣府とでガイドラインやQ&Aを公開しており、こうした動きも社会のデジタル化推進に向けた一助になると考えています。
私はこれまでの日本社会は、現実世界においてはきっちりとした仕組みができていて、かなりうまく回ってきたと考えています。ただ、まさにそれゆえに、デジタル化など次の領域に踏み出すことがなかなかできなかったのではないか。たとえば今回のコロナ禍をめぐるデジタル化課題の記事では、海外メディアに「Fax-loving Japan」などと書かれたこともありました。日本のファクス文化というか、これを用いた連携のあり方は非常に優秀で、映画『シン・ゴジラ』でも、組織改編のたび対策室にファクス複合機を何台も運び込むシーンが印象的です。それは独自の発達を遂げてきたけれども、今回のコロナ禍を通じては、従来と異なる様々な気づきもあったはずですし、世界の大きな潮流は止まりませんから、デジタル化を含め新たな動きが一層進んでいくでしょう。政府内業務については各省の副CIOが統括して課題を洗い出し、検討することになっています。
行政のキーワードがデジタル・ガバメントだとすれば、民間の経済のキーワードは「データ・ドリブン・エコノミー」でしょう。ただ、一口にデータと言っても、ただ集めるのではなく、それが活用し得るデータである必要があります。まず、個人情報の扱いについては、AIやビッグデータの領域まで見据えた本気のテクノロジー活用をとなれば、当然、個人情報も活用できる方が良い。一方で、GDPR(EU一般データ保護規則)のように個人のプライバシーを重視する流れもあります。地域で言うと、今のところ前者は中国などで、後者はヨーロッパで特に見られる考え方ではないでしょうか。日本は今、その間を取るような「Data Free Flow with Trust(信頼性のある自由なデータ流通)」を提唱し、標準形を作ろうとしています。
その中で、世界を相手にいかに経済戦略を立てていくかが重要です。日本やドイツなどはGAFA的プラットフォーマーがいない一方、ものづくりの現場など、データを得る上では優位性を見込める領域もある。そこからどうビッグデータを使った「勝ち筋」を描いていけるかが求められます。その際に大切なのは、世界の潮流を見誤らないよう、どのデータは共有し、どのデータは守るのかというルール作りでしょう。これは今まさに与党で議論をしている部分でもあります。

クラウド化で「縦割りの壁」を越える

行政の縦割り・自治体の横割り状態については、実は政府でもすでに大きな改革をしている領域があります。政府は情報システム関連の予算について、全体で年間約4千8百億円となる一般会計のうち、各省共通部分の約7百億円を一括計上しました。今後3年間で、一括計上のみならずシステム基盤の一括調達まで実現しようとしています。これは結果的に、巷で言われるようなベンダーロックインのような事態も防げることになる。こうした措置がクラウド環境をベースに推進されることで「縦割りの壁」があっても、その上にある「雲」を使って情報を共有できれば、実質的には壁を越えることになります。さらにその横でサイバーセキュリティを強化していけば良い。こうした工夫を重ねることで、新しいデジタル・ガバメントのあり方や共通基盤の整備が進めば、行政のパフォーマンスも確実に上がると考えます。
自治体の横割りの問題も、クラウドを使うことの利点は同様です。一方でこれにはふたつの大きな課題があり、ひとつめは自治体別にある個人情報の保護条例、ふたつめは各自治体が持つ独自のシステムです。オンプレミス(組織内運用)であれ、クラウドであれ、各々に独自システムがあるわけで、これを国が作るクラウドとどうつなげるのか、どこまでつなげるのか、という議論が出てくるでしょう。基本的には「自治体クラウド」のような環境を整備して各自治体に参加していただく形が、経済性とサイバーセキュリティ、双方の点で合理的なので、その仕組みをぜひ作りたいと考えています。各都道府県、自治体とも積極的に議論を重ね、ビジョンを共有しながら判断していただく形を検討中です。なお、国と自治体の連携については前述の個人情報の扱いなども、意見交換と吟味が必要な領域でしょう。

マイナンバーカードの将来性

前述したマイナンバー制度やマイナンバーカードについては、今後どうなるのかとのご質問もよくいただきます。私はデジタル・ガバメントの重要性の観点から、各所から色々なご意見も伺いつつ、この制度の活用を前向きにしっかり考えていくべきだと考えます。マイナンバーカードは、2022年度中にこの制度の対象者ほぼ全員に普及させる計画が進んでいます。これが実現すれば、ICチップ付きのIDカードを皆さんがお持ちになることになり、活用場面も広がるでしょう。たとえば引っ越した際、今はまず旧住所の区役所や市役所に行き、続いて新しく転入する区役所や市役所で手続きをし、併せて電気ガス水道などの手続きを行う必要があります。これも同カードを活用すれば、転入先でのマイナンバーカード情報の更新を行ったあとは、ワンクリックで官民の全ての手続きを済ませられる仕組みが設計可能でしょう。
また、相続時にもきちんと準備さえしておけば、マイナンバーやマイナンバーカードの活用によって大変な相続作業を劇的に軽減できる可能性がある。さらに、在外邦人が国政選挙に投票する際、これを使ってネット投票ができないかという検討を今行なっています。これは、国内におけるネット投票環境の可能性にもつながる話です。
加えて、防災の現場でも活用を考えています。たとえば大規模災害時の各種支援に必要な「罹災証明書」の発行手続きや、避難所での利用者登録もマイナンバーカードでできると良いです。2021年3月からは、6割程度の医療機関等でマイナンバーカードを保険証として使えるようになる予定です。いわゆる「お薬手帳」の情報もこのカードのICチップで呼び出せるようになりますので、たとえばマイナンバーカードを持って避難すれば、避難所で日頃服用している薬がすぐわかります。全般的に、災害時には地元の自治体は圧倒的人手不足になりますから、デジタルで完結できるものはそうすることで、人手不足対策にもなるでしょう。

「デジタル遷都」の覚悟と、その実現に向けて

私は「デジタル遷都」という言葉で、霞が関の機能をサイバー空間へ移すことを提言しています。これはパンデミックや大規模自然災害に対する強靭性を増すためにも、迅速に進めるべきことです。ことさら「デジタル遷都」などと言うのは、リアルな社会で「都を移す」くらいの覚悟とパワーを持ってやらないと、デジタル・ガバメントは成功しないと思うからです。ここまでお話しした通り、そこには構造的な問題と、私たちの意識の持ち方の課題もあります。その克服のためにも、リアルの世界で遷都するぐらいの力や、予算執行体制を準備しないと、意義あるデジタル・ガバメントは実現しないと思っています。
これは日本全体のこれからのあり方に関わる重要な話です。良い意味での密から疎へ、という対応にもなる点では、地方創生にもつながる動きでしょう。デジタル遷都は地方分権も進める一方で、中央と地方のプラットフォーム共有という点は深化する。その過程で、個人情報の考え方や様々な政策も標準化され、ICT対応が進めば、それが「日本の未来」になると信じています。ただ、だからこそ、いち担当者が旗を振って実現できるレベルのことではありません。大切なのは、これを政権の柱に据えることで、財政、経済など含めた大きなテーブルに広げて検討すべき話なのです。
最後に、冒頭に戻るようですが、経営者時代の経験から、この課題に向き合う際の私見をひとつ述べます。私の会社は中小企業で、日々資金繰りをしながら会社を運営していました。いつまでに収支を改善し、資本を増強し、支払いを滞らせず済ませるか。これらの解決が死活問題なので、必然的に短いスパンで、自分の生活と一体のこととして取り組みます。さらにお客さんの満足度もそこへ直結しますし、生鮮品を扱う仕事だったこともあり、日々タイミングを逃さず決断せざるを得ない。単純に国政と比較するつもりはもちろんありませんが、こうした短期的・中長期的視野の共存と、全体と細部を同時にとらえる視点は、今こそ政治に求められていると実感しています。
換言すると、重要なのは制度やサービス全体が「生態系」としてきちんと回るよう、常に目配りするということでしょう。策をひとつ打ったらそれで終わりではなく、その後に「目詰まり」がどこかで生じていないか全体をチェックし、見つかれば解消していくのです。民間のみDXが先行して行政が追いつけないのではいけませんし、国と各自治体も歩調を揃えなければいけない、といった話もこの「生態系」としてとらえればわかりやすい。そうして全体が回り出したとき、初めて大きな効果が出るのだと考えます。特に国政というのは、国民から預かった税収と、国民へ還元するサービスや非常時の支援などが一体になったものです。だからこそ、広い視野に立ち、かつ各所に目を配れる舵取りが求められている。このような意識で取り組んでいます。

平 将明(たいら まさあき)
1967年2月21日生まれ。早稲田大学法学部卒。衆議院議員(東京4区、5期)。前内閣府副大臣(IT政策、科学技術イノベーション、防災等担当)。【略歴:民間企業を経て2005年初当選。自民党経済産業部会長、衆議院決算行政監視委員会理事、経済産業大臣政務官、衆議院内閣委員会理事、内閣府副大臣等を歴任。】

 

1/1ページ