1.「厄介な問題」の時代
COVID-19によって、社会はいままでみたことのない世界に突入した。グローバルな「移動の制限」という、想像できなかった状況はさまざまな産業に影響を与えている。その一方で、「通勤とは」「旅行とは」という、これまで「あたりまえ」であった行為を見直すきっかけとなったことも事実であろう。「あたりまえ」、変わらないもの、という固定概念を超えて、その本質的価値を見いだすことはサービスデザインの観点からも意義が深い。
特に働き方や教育などのやり方は、20世紀、あるいは19世紀の制約のもとで慣習となったことを踏襲していただけであったことが露呈したといえるだろう。対面でのやりとりを優先する、一斉に講義を行う、「会社」「学校」に集うことを前提とするといったことは、「仕事」や「学習」の本質とは全く関係ない。もちろん、対面でできること、場所を共有することでできること、は多くあるが、本来は、行うべき仕事、提供する学びというものをとらえ直し、そのために現状使える手段をすべてフラットに並べて、実施手段を選ぶべきである。しかしながら、業務にしても教育にしても、一人だけでできることではなく、システム、つまり生態系で成り立っているものである。このため、この生態系を変える、という行為には、変えようとする人が「出る杭」になるという宿命が伴う。
また、皮肉なことに、たとえば中国では今年2月のCO2の排出量が25%減少したという推定が報告されているように(文献1)、観光や移動、消費の制約は自然環境に対しては必ずしも悪影響ばかりではない側面もある。
(文献1)Analysis: Coronavirus temporarily reduced China's CO2 emissions by a quarter