当部局では科学技術基本法に基づき5年ごとに策定されている「科学技術基本計画」のもと、政府全体の科学技術イノベーション政策の方針決定や各府省の事業の連携調整を行っています。平成28年1月22日に策定された「第5期科学技術基本計画」において、「Society5.0」の概念が提唱されました。この基本計画の年次計画として作成されている「統合イノベーション戦略」の2019年度版(令和元年6月に閣議決定)では、Society5.0の社会実装を一つの柱とし、その手段としてスマートシティの実現を掲げています。
近年、スマートシティのモデル事例づくりを推進する事業が全国各地で数多く進められてきました。かつて経済産業省が手がけた「スマートコミュニティ実証事業」や、内閣府地方創生推進事務局が所管する「SDGs未来都市」などが挙げられますが、それらはみな「IoTなどの先進技術を使って地域の課題解決を行う」という点で共通しています。しかし、政府が主導する事業は、事業終了後の自律的・持続的な発展が課題となっていました。
こうした問題意識の下、平成31年3月、官房長官のもとに設けられている「統合イノベーション戦略推進会議」において、スマートシティ事業に関する国の基本方針(①ビジョンの明確化、②アーキテクチャによる全体俯瞰、③相互運用性の確保、④拡張性の確保、⑤組織・体制の整備)が合意され、今後関係府省が連携してスマートシティに重点的に取り組んでいくこととなりました。具体的な施策は以下の通りです。
産官学民の連携の場の整備
令和元年8月に合計459の自治体・企業・研究機関などを会員とする「スマートシティ官民連携プラットフォーム」を4府省(内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省)の共同で設立しました。このプラットフォームには、スマートシティに関わる関係府省の他、スマートシティ関連の代表的な6つの事業に採択された企業、大学・研究機関、地方公共団体等が参加しています。具体的な事業および採択事業数としては、総務省の「データ利活用型スマートシティ推進事業(13事業)」や、国土交通省の「スマートシティモデル事業(71事業)」「新モビリティサービス推進事業(19事業)」、経済産業省による「パイロット地域分析事業(13事業)」、内閣府地方創生推進事務局の「近未来技術等社会実装事業(22事業)」そして前述の内閣府「SIPアーキテクチャ構築・実証事業(16事業)」です。
8月のプラットフォーム設立以来、上記事業を一元的に参照できるWebサイトを作成・公開しました。(参考:http://www.mlit.go.jp/scpf/ )また、関係府省が個別地域におけるスマートシティ事業に対する実装支援を実施したり、会員間で共通的な課題の検討・対策を行う「分科会」の編成を行っています。その他、情報交換や自治体と企業のマッチング等を展開していく計画です。このプラットフォームを軸に、官民が一体となって全国各地のスマートシティの取組を強力に推進していきます。
データ連携の円滑化に向けたアーキテクチャの構築
アーキテクチャとは、システム全体を俯瞰する設計図のことです。ドイツが提唱するIndustry4.0においてもアーキテクチャを活用し、各企業のデータやシステムを個別機能、ルール、データ、アセットなどの構成要素に分解し、関係性を可視化することで関係者間の相互理解を円滑に進めています。共通のアーキテクチャを活用することで、相互に連携・協調可能なシステム設計や技術開発などを合理的に進めることが期待されます。
内閣府は「戦略的イノベーション創造プログラム」(cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program:SIP)において、データ連携に関する研究活動を進めています。交通、エネルギー、インフラ、防災、物流、観光、健康・医療、金融等の多様なデータの連携により、様々なサービスを展開し、スマートシティの実現につながることが期待されます(図1)。
図1 データ連携によるスマートシティの実現
(出典)内閣府
SIP第1期(平成26 〜30年)においては、モビリティ、防災、農業など、分野ごとにデータ基盤をつくり、自動運転の基盤となるダイナミックマップ(工事、渋滞などの情報を紐づけた高精度3次元地図)の整備や、平常時・災害時を越えたデータ連携による基盤的防災情報流通ネットワーク(SIP4D)の実用化などの成果を挙げてきました。
SIP第2期(平成30 ~令和4年)では、様々な分野のデータがつながる分野間データ連携基盤の整備を開始し、令和4年度までに本格稼働させるべくプログラムを進行させています。令和元年度には、スマートシティ分野、パーソナルデータ分野、地理系分野の3分野におけるアーキテクチャ構築を進めています。関係府省が連携して「スマートシティアーキテクチャ検討会議」を発足し、政府事業の基盤を一体化し、相互運用性や機能の拡張性を確保するための共通アーキテクチャの構築を進めています。
以上のような取組により、今後は各府省のスマートシティ事業を共通のアーキテクチャのもとで構築することで、都市のデータを互いに参照でき、様々な民間企業、大学、NPOが参画できるような拡張性を確保していきます。また、ベンダーだけに任せるのではなく、自治体や地方の大学、産業界、地域のステークホルダーが地域課題の解決に参画するような体制をつくっていきます(図2)。
図2 Society5.0のリファレンスアーキテクチャ
(出典)内閣府
国際展開世界の都市と連携し、安全かつ透明で開かれたスマートシティの実践を広く海外に展開することが重要です。
内閣府は、令和元年10月に、横浜市内において、国土交通省、横浜市、世界経済フォーラム等と共同で、「アジア・スマートシティ・ウィーク」として、一連の国際会合を開催しました。
この際に設立会合を行った「グローバル・スマートシティ・アライアンス」は、スマートシティを目指す世界の都市間のネットワークを強化し、成功事例を共有するための場であり、我が国がG20プロセスで設立を提唱し、G20大阪サミットの首脳宣言において、取組が奨励されたものです。現時点で、G20参加国を中心に約40の都市から参画の表明を受けています。またアライアンスとの提携を行った都市ネットワークの傘下に所属する都市・企業・団体の数は既に20万団体にも及びます。アライアンスでは、今後、データとデジタル技術のガバナンスのための共通指針となる原則の採択や、都市間ネットワーキングの経験の共有に向けた活動を進めていきます(写真1)。
写真1 グローバル・スマートシティ・アライアンス設立会合
また、国土交通省が主催として同時に開催された、「日ASEAN スマートシティ・ネットワーク ハイレベル会合」では、日ASEAN間の官民のマッチングを行い、ASEAN地域におけるスマートシティ開発案件に対する理解の促進が行われました。「アジア・スマートシティ会議」では、横浜市が中心となって、アジアの都市のリーダー達が集い、ベストプラクティスを共有しました。
これら複数のスマートシティの国際会議を一体的に開催することで、安全で開かれたスマートシティという日本の理念や、日本の企業や自治体に蓄積されているノウハウ・技術を、海外の各都市と共有することが出来ました。
さいごに
以上の通り、国内における情報共有の仕組みとしての官民連携プラットフォームの形成、各地域において効率的なスマートシティの実装に向けた共通アーキテクチャの構築、さらには国際展開を見据えて、海外の都市との連携によりスマートシティの推進を行っています。
Society5.0は抽象的な社会像を示したものですが、各都市のデジタルトランスフォーメーションや科学技術の活用等、スマートシティの社会実装を進めていくなかで、Society5.0の具体的なイメージを共有し、より豊かな、地域格差を克服した、人間中心の社会の実現を目指していきたいと考えています。
土屋 俊博(つちや としひろ) 内閣府 政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付 参事官(統合戦略担当)付 政策調査員 電機メーカーに入社後、経営企画・事業企画部門において産官学民の共創推進活動やスマートシティ関連の新事業企画に携わる。2019年6月より現職。 |