1.行政サービスの非効率が国力を損なう
行政手続きの体験は愉快とは言い難い。自分がやらなければならない手続きが何かを知るために、いくつもの役所のウェブサイトをあたって調べる必要がある。いざ手続きをするとなっても、紙の書類に何度も氏名や住所を書かなくてはならない。窓口が平日にしか開いていなければ、仕事や学業を休んででも窓口に行かなければならない。日本国内には、そのような行政手続きが国・地方合わせて数万種類も存在する。
行政手続きにかかる手間は紛れもなく我々の社会が負担しているコストだが、そのコストがどれだけ大きいのか、日本国内に十分な統計や調査資料はない。他方、欧州の国々では2000年代にこの問題に対し調査・分析がなされている。例えば英国ではGDP比約1%、デンマークではGDP比2%ほどの金額が、事業者が手続きに費やす人件費とされている(※1)。
GDP比1 〜2%というのは、日本に置き直すと約5 〜10兆円にあたる。この推論が正しければ、日本国内の給与総額が約213兆円(※2)だから、20~40人に一人は行政手続きのために仕事をしている計算になる。しかも、上記の試算は事業者に話を絞っている。引越しや結婚に伴う氏名変更、相続など、個人に関する行政手続きまで考慮に入れると、国家全体の経済的損失はさらに大きい。
裏を返すと、手続きにかかる人件費を大幅に削減できるサービスがあれば、事業者は喜んでお金を払うはずだ。個人でも、有給休暇を使って役所の窓口に並ぶ手間を減らせるならお金を払う人はいるはずだ。
つまり、行政手続きを効率化するサービスには大きな市場性がある。私が株式会社グラファーを創業した背景には以上のような考えがあった。
(※1)内閣府「諸外国における⾏政⼿続コスト削減に向けた取組」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/bukai/20160920/160920bukai03.pdf
(※2)国税庁「平成29年分民間給与実態統計調査」
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2018/minkan/index.htm