1.はじめに
電子政府の進み方は各国の事情によって差があり、電子政府の推進に繋がる要因も様々である。政策の企画立案に当たっては、こうした進捗度合いと推進要因との関係性を捉えておくことが重要と考えられる。その一つとして、国連では、2年ごとに発表する電子政府ランキングにおける電子政府開発指数(EDGI)と外部の変数との関係を明らかにすべく、‘E-government survey’において2002年以降様々な変数との回帰分析を行っている。また、EDGIの構成要素であるオンラインサービス指数(OSI)、通信インフラ指数(TII)、人的資本指数(HSI)と経済成長率、失業率、インフレ率との関係を分析したM.ルニェニチュカの研究や、政治文化との関係を分析したH.ジャオの研究なども存在する。しかしながら、上記の研究は、ある年度における変数同士の関係に注目した静的な分析が主である。
本稿では、何が電子政府を推進する要因となるのかを、国連電子政府ランキングの上位国を対象として、GDP成長率及び財政収支との関係性について調査・分析を行った結果を紹介する。
2.調査方法
国連ランキングで「電子政府が極めて進んでいる国」として位置づけられる、EDGIが0.75以上の40か国のうち、関連するデータが公表されていないため調査が困難な2か国を除いた38か国(図表1参照)全体を対象に相関分析を行った。
図表1 調査対象国の電子政府ランキング(2018年)
(出典)国際連合(2018)‘UN E-Government Survey 2018’をもとに著者作成
EDGIの増減(2014年から2018年の推移)との相関分析を行う外部変数については、前章の先行研究紹介の箇所で示したように、様々な変数が候補となるが、本稿では国民一人あたりGDP成長率の増減、及び財政収支の対GDP比の増減(双方とも2013年から2017年の推移)の2つを取り上げた。これは、以下のような仮説設定に基づくものである。
a. GDP成長率が上昇傾向にあり、経済活動が拡大すると、円滑な経済活動を促進するために企業の手続などを簡素化、効率化する取組の1つとして手続き見直しへの圧力が高まり、電子政府に関する政策が推進される。したがって、GDP成長率の増減とEDGIの増減は正の相関関係にあると考えられる。
b. 財政収支対GDPが下降し財政制約が高まると、行政の業務効率化への圧力が高まるため、効率化の手段としての電子政府政策が推進される。したがって、財政収支対GDP比の増減とEDGIの増減は負の相関関係にあると考えられる。
さらに、先進国と発展途上国との間に傾向の差異が見られるかを確認するため、38か国に先進国と発展途上国に分けて同様の分析を行った。
3.調査結果
a.EDGIと国民一人あたりGDP成長率との関係
最初に、対象38か国における相関分析を行ったところ、相関係数は0.501173であり、一定の正の相関関係の存在が推定された。
次に、対象38か国を先進国(31か国)と発展途上国(7か国)に分けて同様に相関分析を行ったところ、先進国では相関係数は0.627044であり、やや強い正の相関が認められた(散布図は図表2参照)。一方、発展途上国では相関係数は0.408818と弱い相関であり、散布図上でもバラつきが見られた(散布図は図表3参照)。
b.EDGIと財政収支対GDP比との関係
最初に、対象38か国における相関分析を行ったところ、相関係数は0.168184であり、相関関係はほとんど認められなかった。
次に、先進国と発展途上国に分けて同様に相関分析を行ったところ、先進国では相関係数が0.444531、発展途上国では0.402859と、両者に大きな差は見られず、相関も弱いことが明らかになった(図表4、5参照)。
図表2 先進国における一人当たりGDP成長率の増減とEDGIの増減の散布図
(出典)著者作成
(参考)相関係数と相関の強さ
(出典)著者作成
図表3 発展途上国における一人当たりGDP成長率の増減とEDGIの増減の散布図
(出典)著者作成
図表4 先進国における財政収支対GDP比の増減とEDGIの増減の散布図
(出典)著者作成
図表5 発展途上国における財政収支対GDP比の増減とEDGIの増減の散布図
(出典)著者作成
上述した調査結果をまとめると、次のようになる。
・ 全体的な傾向として、国民一人あたりGDP成長率の増減とEDGIの増減に関しては強いとは言えないもののある程度の相関が見られる。一方、財政収支対GDP比の増減とEDGIの増減に関しては、相関は弱い。
・ 先進国と発展途上国とに分けて見た場合には、国民一人あたりGDP成長率の増減とEDGIの増減に関しては、先進国では相関はやや強い一方、発展途上国では相関は弱い。一方、財政収支対GDP比の増減とEDGIの増減に関しては、先進国も発展途上国も総じて相関は弱い。
4.考察
上記の分析結果から、特に先進国において、電子政府の推進力として経済成長が一定程度影響を及ぼすことが明らかになった。一方で、財政制約の高まりが電子政府を促進するという傾向が必ずしも当てはまらないことが分かった。相関係数は低いものの、係数自体は正であることから、どちらかと言えば財政的な余力がある場合にIT投資が行われ、電子政府政策は進むのではないかと考えられる。
現在、我が国では電子政府の次の段階としてデジタル・ガバメント推進の取組が行われているところであるが、取組を進めるにあたっては経済のさらなる成長を促す政策とセットでの検討も必要であると考えられる。