機関誌記事(記事単位)

2019.02.08

2019年02月号トピックス 行政・公共課題におけるイノベーションの可能性

株式会社村上憲郎事務所 代表取締役
元Google米国本社 副社長兼 Google Japan 代表取締役社長
村上 憲郎

はじめに

イノベーションと言うと、一部のテクノロジー系企業や、学術的な研究分野でなされるものというイメージも強い。他方、行政や地方自治においてはその安定性が求められる点で、リスクを負ってイノベーションに挑む必要性の可否を問う声もあり得るだろう。しかし、今日におけるイノベーションの定義とは、新技術の発明に留まらず、新たな発想で社会に意義ある価値や変化をもたらす、幅広い意味での変革をも含んでいる。そこには「安定」をより力強く支えるための課題解決や改善も含まれるはずであり、また変化し続ける現代社会において、安定=現状維持ではないことも明らかだ。では行政や公共課題をめぐるイノベーションとは、どのように、どんな形であり得るのか? コンピュータ、インターネット界の世界的企業で活躍した後、現在も各所でイノベーティブな試みに参加する村上憲郎氏に聞いた。

取材・文/内田 伸一

 

1.地方自治体の取り組み

本記事タイトルにもある、今回頂いたテーマへの私見をひと言でいうなら「首長次第である」ということだ。といっても、ITや各種の最新テクノロジーの専門家をリーダーにすれば良い、ということでは必ずしもない。たとえば20年ほど前、Windows95が発売され、インターネットへのアクセスが一般的になり始めた当時は、そこから何が始まるのか、我々の多くは気付いてすらいなかったと思う。

対して2019年現在、進歩的なテクノロジーが人々の生活を向上させるという「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の考え方は各所に普及し、これをめぐる三題噺とも言えるIoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、人工知能をめぐる報道が新聞に載らない日はない。つまり、ヒントはあちこちに転がっており、実際に全国の地方自治体でも、既にそうした取り組みに意欲的な首長がいる。

1/1ページ