ワシントン州政府では、IT部門職員の多くが数年以内に定年を迎えるという危機的状況に直面する中で、人材を確保するために、どうすれば組織に魅力を感じてもらえるかを模索していた。その取組の1つとして、先駆的な民間企業での取組を参考に、これまでのヒエラルキーに代わる新たな組織形態として、上意下達型の階層構造を否定し、一人一人に意思決定の権限を付与した上で、各人がルールに基づいてセルフマネジメントを行うホラクラシー(holacracy)組織を実験的に導入した。
本稿では、ワシントン州政府の前副CIOであるマイケル・ディアンジェロ氏が同州で実践に当たったホラクラシー組織導入の実証実験について、日本ではまだ馴染みの薄いホラクラシーについての解説を交えつつ、導入に至った課題認識や経緯、成果、今後の展望等を語っていただいた。
取材・文/編集部
1.最近のワシントン州政府での課題
ワシントン州政府全体の職員は4万人おり、そのうちIT部門の職員が4千人います。IT部門は州政府だけではなく、100にのぼる政府機関へインターネットアクセスやデータセンターなどのITサービスを提供しています。また、財務、人事といった分野でのシェアードサービスを提供する役割も持っています。さらに、大型ITプロジェクトの監督や、IT戦略の立案についても担当しています。
私は副CIOとしてIT部門を統括する中で、大きく2つの領域で州政府の変革に携わってきました。1つが人事です。職員の高齢化が進む中、州政府も民間企業と競いながら新たな人材を獲得していかなくてはなりません。そのためには、州政府を人材にとって魅力を感じてもらえるような組織にすることが必要です。もう1つがテクノロジーの変革です。具体的にはクラウドをどのように活用するか、また既存のデータセンターをどのように活用するかといった課題に取り組みました。これら2つに加えて、仕事のアプローチの変革手法として、スクラムやアジャイルの導入を進めました。これらの取組を通じて、コストの削減やリスクの低減に注力しました。