機関誌記事(記事単位)

2017.12.08

『行政&情報システム』2017年12月号トピックス ウェルビーイングのエコシステムを目指して

NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部
主任研究員(特別研究員) 渡邊 淳司

1.ウェルビーイングとは何か?なぜ、ウェルビーイングか?
スマートフォンをはじめとする携帯型情報端末や無線通信環境の普及により、私たちは、いつでもどこでもインターネットにアクセスし、メッセージの授受を行えるようになりました。これは人間の情報処理能力を向上させたということができるものの、一方で、その心身への負の影響も指摘されています。例えば、情報機器からの度重なるアラームは、目の前のことへの集中を阻害し、知的パフォーマンスを低下させます。また、私たちに送られてくるコンテンツは、何らかのアルゴリズムによって制御され、その人の趣向に偏った情報が送られてきます。さらには、自動機械やロボットが人間の身体的機能を補助・代替するだけでなく、人工知能が人間の知的機能を補助・代替するようになり、人間にとっての労働の意味や生きる意味について、様々な議論を巻き起こしています。これらのことは、情報技術の設計原理、極論すると技術の根源的な目標である「人間をしあわせにする」ための設計原理が確立されていないというだけでなく、そもそも人間にとって「何がしあわせなのか」ということに対する、哲学が共有されていないということを示しています。現在、私は、所属研究機関においてのみならず、科学技術振興機構 社会技術研究開発センター「人と情報のエコシステム」領域「日本的ウェルビーイングを促進する情報技術のためのガイドラインの策定と普及」プロジェクト[6]に参加し、数多くの方々とウェルビーイングに関する議論やワークショップを行ってきました。本稿では、これまでのリサーチに基づき、情報技術によるウェルビーイング向上に向けて何を考えれば良いのか、どのような要因が重要なのか述べていきたいと思います。

 

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