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2024.05.22

2024年6月号 連載企画 2023年度 海外(米国)調査について

一般社団法人行政情報システム研究所
部長代理 田中 稔夫

【調査の背景・目的】
 行政情報システム研究所では、諸外国におけるデジタルガバメントの先進的な取り組みを調査し、我が国におけるデジタルガバメント推進に役立つ知見を得ることを目的とした海外調査を実施している。2023年度は大統領府がAIに関する大統領令を発令するなど、連邦政府においてデジタルガバメント分野での特徴的な取り組みが進行していることを踏まえ、米国を選定した。
 本稿では、米国調査の概要について紹介し、6月以降4回に分けて各視察先での調査結果の詳細について報告をする。
【滞在先】
アメリカ合衆国ワシントン D.C.
【訪問先】
・一般調達局(GSA)
・ジョージタウン⼤学ビークセンター(Beeck Center for Social Impact and Innovation)
・大統領府 国家安全保障会議(National Security Council; NSC)
・国務省サイバー空間・デジタル政策局(Bureau of Cyberspace and Digital Policy; CDP)

 

図表1 ワシントンD.C.

(出典)GoogleMapsをもとに筆者が作成

 

【期 間】
2023年(令和5年)12月5日(火)~8日(金)

 

図表2 調査参加者
左から田中部長代理、増田主任研究員、橋本専務理事、井上客員研究員

(出典)筆者提供

 

◆訪問先1:
【訪問機関】
一般調達局(GSA)
 一般調達局(General Services Administration; GSA)は、官公庁の建物の建設・管理・保全、及び商業用不動産のリースと管理を担当する政府機関である。また、行政機関による調達のためのソリューションを通じて、民間セクターの専門サービス・機器・消耗品・ITシステムを政府機関や軍に提供している。加えて、政府全体の方針策定を通じて、資産管理のベストプラクティスと効率的な政府運営を推進している。
【訪問日】
12月5日午後
【訪問目的】
 連邦政府におけるIT部門の近代化及びデジタル公共サービスの提供に関する動向について尋ねる。
【対応者】
Mukunda Penugonde氏
Jennifer Rostami氏
Ed Golden氏
Adam Grandt-Nesher氏
Jessie Posilkin氏
【訪問結果概要】
・GSAは独自の予算を持っておらず、他の政府機関からの貸付基金で運営されている。
・GSAで調達を通じたIT部門の近代化を担う、連邦調達サービス(Federal Acquisition Service; FAS)の技術変革サービス(Technology Transformation Services; TTS)は4つのプログラムで構成されている。
◇センター・オブ・エクセレンス(Centers of Excellence; CoE):特定の技術や分野の近代化を担当する組織で、大部分の職員が当該分野で15年以上の職務経験を有する専門家で構成されている。連邦政府職員と民間人材の混成チームとなっている。
◇18F:デジタル公共サービスのエンジニアリング、プロダクトデザインを担当する組織で、多様なバックグラウンドと専門性を有する人材で構成されている。全員が連邦政府職員である。
◇大統領イノベーションフェロー(Presidential Innovation Fellows):TTSの人材育成フェローシッププログラムの1つ。長年にわたり特定の分野で経験を積んだプロフェッショナルが任命されているが、任期は1年と短期間である。
◇米国デジタル部隊(United States Digital Corps; USDC):TTSの人材育成フェローシッププログラムの1つで、大学卒業後0〜1年の若手テック人材に連邦政府での経験を積んでもらうことを目的としている。任期は1〜2年。
・TTSのプログラム実施に関して、人材の採用、確保、幹部の交代対応やクライアントとなる他の政府機関との協働などの観点からお話を伺った。

 

◆訪問先2:
【訪問機関】
ジョージタウン大学ビークセンター(Beeck Center for Social Impact and Innovation)
 ジョージタウン⼤学ビークセンターは、アルベルト・ビークとオルガ・マリア・ビークによって2014年に設⽴された教育・研究機関である。設⽴の⽬的は、公共部⾨と⺠間部⾨の双方における様々な問題について探求し、次世代のソーシャルインパクト・リーダーを育成することであった。データ、デザイン、テクノロジー、政策を公平な社会変⾰の⼿段として活⽤し、⽇常⽣活の基盤となるシステムを改善することをミッションとする。また、ミッションに関連するステートメントとして、ウェブサイト上には“We value things differently.”(「わたしたちは異なる価値観を持っている」)という⼀⽂を掲げている。
【訪問日】
12月6日午前
【訪問目的】
 ジョージタウン大学ビークセンターにおけるサービスデザインに基づくソーシャルイノベーションの取り組みについて尋ねる。
【対応者】
Lynn Overmann氏
Dominic Campbell氏
Aaron Snow氏
Katya Abazajian氏
Tre Bracey氏
【訪問結果概要】
 ビークセンターは、連邦政府とは異なりローカルな⾏政機関に直接働きかけたり、協働したりすることを通してサービスデザインを実践する機関である。⾏政のサービスデザインアプローチにおいては、行政が「ITシステムは急速に変化する」という認識を持つことが重要であり、そのためには政策の担当者とテクノロジーの専⾨家の緊密な連携が必要となる。さらに、行政機関をデザインすることにより、組織構造の変⾰と職員のエンパワメントを目指すことで、米国連邦政府が「より良い調達システムの実現」・「中央と地⽅の関係性の変⾰」・「政府に対する信頼感の回復」などの政策が実現できる。

 

図表3 ジョージタウン大学での視察の模様

(出典)筆者提供

 

◆訪問先3:
【訪問機関】
大統領府 国家安全保障会議(ホワイトハウス(NSC))
 国家安全保障会議(National Security Council; NSC)は、大統領府に所属する機関で、大統領が上級顧問や閣僚とともに国家安全保障や外交政策を検討するための主要な場である。1947年にハリー・トルーマン大統領の政権下で発足して以来、大統領に助言を与え、大統領を補佐し、政府機関間での国家安全保障に関する問題を調整することを役割としている。
【訪問日】
12月6日午後
【訪問目的】
 ホワイトハウスの国家安全保障局におけるデータ、デジタル及びAI関連の動向について尋ねる。
【対応者】
Tantum Collins氏
【訪問結果概要】
 NSCでは「AI大統領令」に続いて、IT国家安全保障覚書の策定に取り組んでいる。米国連邦政府では、AI活用が2つの領域で進められているが、いずれも極めて初期段階にある。
 組織業務の効率化:内部調整、マネジメントの改善、職員と適切なリソースの接続といった目的でのAI活用の相談が様々な政府機関からNSCに寄せられており、内部マッチングのための機械学習システムの構築が取り組まれている。
 国民からのフィードバック収集:国民が深くリアルタイムで政府と関わることができることを理想としているが、その段階からはかけ離れているという。

 

図表4 大統領府 国家安全保障会議での視察の模様

(出典)筆者提供

 

◆訪問先4:
【訪問機関】
国務省サイバー空間・デジタル政策局(Bureau of Cyberspace and Digital Policy; CDP)
 米国国務省のサイバー空間・デジタル政策局は、アントニー・ブリンケン国務長官の「近代化アジェンダ」の一環として、国務省が21世紀の課題に答えるためのスキルや能力の構築や、デジタル政策、ICTインフラ、サイバーセキュリティ、デジタル空間の自由、インターネットガバナンスに関する対外政策に従事する職員を雇用するため、2022年4月に設立された部局である。CDPは、サイバー空間及びデジタル技術に関する外交政策を主導、調整、促進することにより、米国の国家と経済の安全保障を促進する部局である。すべての人がデジタルに接続することでもたらされる機会にアクセスし、反映する経済と社会を築くことを目指し、国際的なパートナーシップの構築も担当している。
【訪問日】
12月8日午前
【訪問目的】
 国務省のサイバー空間・デジタル政策局における対外政策の動向について尋ねる。
【対応者】
Brandon Huck氏
Phil Sforcina氏
Brian Daigle氏
McKenzie Crowe氏
【訪問結果概要】
 米国連邦政府では、政府全体としてのデジタル戦略の策定をホワイトハウスが主導(国内向けの政策は行政予算管理局が担当。対外政策は国家安全保障会議が担当)し、関連する部局を持つ政府機関どうしで緊密な連携が図られている。その一方で、米国連邦政府は非集権的な構造を持つため、各機関はリソースの調整に自由度を持たせている。
 データ化、デジタル化はまだ新しい分野であるということもあり、米国連邦政府では「デジタル庁」のような機関は設置されていない。その代わりに様々な省庁がデジタル関連の部門を有している。政策課題に応じて異なる協力体制が整えられ、特に実態と政策との間に乖離が見られる場合には、いずれかの機関が主導して必要な人材を獲得し、必要な取り組みが実施されている。

 

田中 稔夫(たなか としお)
一般社団法人行政情報システム研究所 認証基盤部 部長代理
ソフトウェアハウスで主に基幹系システムの設計・開発に従事後、2006年10月から弊所にて政府認証基盤の設計・構築・運用・保守に従事。