1.はじめに
地方公共団体は、住民との接点となる多様な窓口機能を有しておりますが、近年、地方における人口減少、市町村合併などの流れの中で、その拠点の数は、支所や出張所等も含め、減少を余儀なくされてきました。また、住民の生活スタイルやニーズが多様化している中、デジタルツール等の有効活用や住民との接点の多様化・充実化等により住民と行政との接点(フロントヤード)の改革を進め、住民サービスの利便性向上と業務の効率化を図り、持続可能な行政サービスの提供体制を確保していくことが求められております。
日本郵便株式会社は、日本郵便株式会社法で、「郵便局を活用して行う地域住民の利便の増進に資する業務」を行うこととされております。また、「地方公共団体の特定の事務の郵便局における取扱いに関する法律」(以下、「郵便局事務取扱法」という)に基づき、郵便局で、住民票の写し等の公的証明書の交付事務やマイナンバーカードの電子証明書の発行等を取り扱うことができ、行政の窓口機能の一端を担うことが期待されております。
本稿では、2023年6月の法改正により新たに郵便局で取り扱うことが可能となった事務や地方公共団体からの受託事務の事例について紹介します。
2.郵便局事務取扱法の改正の背景と変更点
ここでは、郵便局事務取扱法の改正の背景と改正のポイント等について紹介します。
(1)改正の背景
政府におけるマイナンバーカードと健康保険証の一体化(健康保険証廃止)の方針(2024年12月2日施行)を踏まえ、住民の利便性の向上とマイナンバーカードの更なる普及につなげていくため、マイナンバーカードの交付申請受付等が実施可能な場所の拡充が必要な状況となっておりました。
郵便局の設置基準は、日本郵便株式会社法等により、①あまねく全国に郵便局を設置する、②いずれの市町村にも1局以上設置する、③過疎地においては現在の郵便局ネットワークの水準を維持する、等が規定されているため、日本郵便株式会社は全国に郵便局ネットワークを有しています。
このことから、あまねく全国に設置された約20,000の郵便局で、マイナンバーカードの交付申請受付等が実施可能となるよう、郵便局事務取扱法が改正されたものです。
(2)改正のポイント
今回の改正により、取扱が可能となったマイナンバーカード関連の事務は、①交付申請受付、②引渡し(マイナンバーカードの更新)、③券面記載事項変更の受付、④紛失届の受付、⑤返納届の受付の5つです。その中でも、①交付申請受付については、2024年2月21日に全国で初めて受託を開始いたしましたので、事務の詳細について紹介します。
(3)マイナンバーカードの交付申請受付事務
従来、住民がマイナンバーカードを受け取るためには、市区町村による本人確認が必要なため、市区町村窓口へ行く必要がありました。しかし、本事務を郵便局で受託することにより、郵便局でのマイナンバーカード交付申請時に、市区町村によるオンラインでの本人確認ができるようになることから、申請や交付時に市区町村窓口へ行くことなく、マイナンバーカードを郵送で直接受け取ることが可能となったものです。
図表1は、マイナンバーカードの交付申請受付の事務フローを示しています。市区町村によるオンラインでの本人確認は、市区町村が郵便局へ貸与する本事務専用のタブレット端末を使用したビデオ会議システムにより行われます。当該タブレット端末では、オンラインでの本人確認の他、市区町村と郵便局間で情報連携やデータのやり取りも行います。
図表1 マイナンバーカードの交付申請受付事務の事務フローイメージ図
(出典)日本郵便㈱作成資料
3.日本郵便株式会社(郵便局)におけるマイナンバーカード普及促進の取組
ここでは、実際に郵便局で行っているマイナンバーカード普及促進に向けた取組について紹介します。
これらに係る委託費用等では手厚い国の支援策※が設けられています。
※ マイナンバーカード関連の事務(2(3)、3(1)及び(3))では『マイナンバーカード交付事務費補助金(補助率:10/10)』が活用でき、市区町村が購入するキオスク端末(3(2))では『特別交付税措置(措置率:0.7(財政力補正あり)。2025年度まで)』や『デジタル田園都市国家構想交付金(TYPE1)(交付割合:1/2)』を活用できます。
(1)マイナンバーカードの電子証明書関連事務
図表2は、マイナンバーカードの電子証明書の発行、更新の事務フローを示しています。これまでは市区町村窓口でしか実施できませんでしたが、2021年度の郵便局事務取扱法の改正等により、署名用電子証明書及び利用者証明用電子証明書の発行・更新等の事務やマイナンバーカードに設定されている暗証番号の初期化等の事務を郵便局窓口で実施することができるようになりました。2024年1月末現在で、全国13団体から33局で取り扱っています。
図表2 マイナンバーカードの電子証明書関連事務の事務フローイメージ図
(出典)日本郵便㈱作成資料
(2)市区町村購入のキオスク端末の設置及び運用事務
ア セルフ型キオスク端末
図表3は、郵便局に設置されたセルフ型キオスク端末の地方公共団体からの依頼内容と日常の対応内容を示しています。郵便局では、郵便局のお客さまロビーに設置されたキオスク端末内の料金回収及び市区町村への送金や用紙切れ、紙詰まりの対応等を実施しています。2024年1月末現在で、全国10団体から13局で取り扱っています。
イ セパレート型キオスク端末
図表4は、セパレート型キオスク端末でマイナンバーカードを使用した証明書の交付申請の事務フローを示しています。セルフ型キオスク端末を申請用端末(お客さまロビー)と印刷用複合機(事務室内)に分離して設置し、申請された証明書の料金の受取や交付等を実施しています。2024年1月末現在で、全国3団体から3局で取り扱っています。
図表3 セルフ型キオスク端末の概要
(出典)日本郵便㈱作成資料
図表4 セパレート型キオスク端末による証明書の交付申請の事務フロー図
(出典)日本郵便㈱作成資料
(3)マイナンバーカードの申請支援事務
図表5は、マイナンバーカードの申請支援事務の事務フローを示しています。希望する住民に対して、申請書の記入方法の説明や申請に必要となる顔写真の撮影を実施しています。2024年1月末現在で、全国182団体から1,786局で取り扱っています。
図表5 マイナンバーカードの申請支援事務の事務フローイメージ図
(出典)日本郵便㈱作成資料
4.宮崎県都城市様の事例
ここでは、全国で初めてマイナンバーカードの交付申請受付事務を委託いただいた宮崎県都城市職員様から頂戴したお声を紹介します。
≪宮崎県都城市地域振興部市民課 主幹 小河原 隆文 様≫
本市はデジタル社会における重要なインフラとして、マイナンバーカードの普及促進に努め、全国トップクラスの保有枚数率を誇っていますが、2024年度末からはマイナンバーカード交付開始から10年が経過することから、マイナンバーカード更新が大きな課題になるものと考えていました。
そのような中、法改正を受け、2024年2月にマイナンバーカードの交付申請受付事務を多くの市民が集う商業施設内にある、イオンモール都城駅前内郵便局様に全国初の事例として委託を開始いたしました。
開始時点では、統合端末のシステム改修等が整っていないことから、マイナンバーカードの交付申請受付事務のみの委託としていますが、今後は課題と感じているマイナンバーカードの更新、そして券面記載事項変更の受付、紛失届や返納届の受付についても委託を拡大していきたいと考えております。
また、コンビニが無い地域においても証明書発行サービスを気軽に利用して頂けるように、こちらも全国初の事例として、セパレート型キオスク端末を中山間地域にある西岳郵便局様に設置しています。
今後、日本郵便株式会社様との協業により、地域に根差し、地域住民からの信頼も高い郵便局を活用することで、行政の窓口機能の充実や、地域の課題解決、住民満足度の向上を図っていきたいと考えています。
5.おわりに
日本郵政グループでは、地方公共団体や地域企業などを含め、グループ内外との協業を促進し、地域ニーズに応じた多種多様な商品・サービスを提供していくことを通じて、幅広い世代・地域のお客さまへ新たな価値を提供することを目指す「共創プラットフォーム※」の実現を目指しています。
本稿では、マイナンバーカードの交付申請受付事務をはじめ、マイナンバーカードの電子証明書関連事務やキオスク端末の設置及び運用事務等の取組を紹介させていただきました。これら以外にも、地方公共団体からの受託事務としてデジタル支援事務等の様々な事例がございますので、全国津々浦々にあり公的地域基盤である「郵便局」を活用いただくことで、地域の課題解決の一助となればと思います。
※ 日本郵政グループにおける中期経営計画「JPビジョン2025」の中で、日本郵政グループはお客さまと地域を支える「共創プラットフォーム」を目指すこととしています。当社グループの最大の強みである郵便局ネットワークにより、グループ内で一体的なサービスを提供していくとともに、これまでになかったグループ外の多様な企業等との連携を行うことで、地域において生活するお客さまが、安全・安心で、快適で、豊かな生活・人生を実現することを支えてまいります。
小河原 隆文(おがはら たかふみ)
都城市地域振興部市民課 主幹
原田 賢一郎(はらだ けんいちろう)
日本郵便㈱地方創生推進部長
1993年自治省(現:総務省)入省。中央府省で総務省データ通信課課長補佐、自治大学校教授、内閣府地方分権改革推進室企画官など、地方自治体で千葉県交通計画課長、三重県菰野町副町長、宮崎市副市長などを歴任するかたわら、実務家教員として東京大学大学院客員助教授、東北大学大学院准教授、北海道大学大学院教授、関西学院大学教授を歴任。2023年7月から現職。
小川 晃弘(おがわ あきひろ)
日本郵便㈱地方創生推進部 担当部長
1997年郵政省(現:総務省)中国郵政局入省。2009年日本郵便(株)本社営業推進部へ異動。郵便局管理者、トータル生活サポート事業部等勤務を経て、2021年4月から現職。
石原 秀樹(いしはら ひでき)
日本郵便㈱地方創生推進部 地方創生企画・業務担当 課長
2009年郵便局株式会社(現:日本郵便株式会社)入社。本社(チャネル企画部、経営企画部、改革推進部)、支社(人事部)、郵便局管理者勤務を経て、2019年4月から現職。
柿﨑 経一(かきざき けいいち)
日本郵便㈱地方創生推進部 地方創生企画担当 係長
2001年総務省入省。神奈川県内の郵便局、本社(金融業務部、チャネル企画部)、郵便局管理者勤務を経て、2022年1月から現職。
松井 祐太朗(まつい ゆうたろう)
日本郵便㈱地方創生推進部 地方創生企画担当 主任
2012年郵便局株式会社(現:日本郵便株式会社)入社。東京都内の郵便局、本社(総務部、改革推進部)勤務を経て、2021年4月から現職。
三浦 萌菜(みうら もえな)
日本郵便㈱地方創生推進部 地方創生企画担当 主任
2017年日本郵便株式会社入社。埼玉県内の郵便局、支社(金融業務部)勤務を経て、2021年4月から現職。
渡部 翔太(わたなべ しょうた)
日本郵便㈱地方創生推進部 地方創生企画担当 主任
2020年日本郵便株式会社入社。埼玉県内の郵便局、支社(郵便・物流オペレーション部)勤務を経て、2023年4月から現職。