1.はじめに
一般社団法人ロボットデリバリー協会(以下「本会」)は、令和4年を「ロボットデリバリー元年」と位置付け、ロボットデリバリーサービスの基盤構築と早期の社会実装を目指して、令和4年1月20日に発足した自動配送ロボットの業界団体である。令和5年7月末時点の会員数は30社(正会員23社、賛助会員7社)であり、自動配送ロボットのメーカーからサービサーまで多様な主体が参画している。
自動配送ロボットについては、これまで公道実証実験の手続を経て、多くのメーカーやサービサーにおいて取組が進められてきた。一方、政府においても、民間主導によるロボットデリバリーサービスの社会実装を後押しすべく、低速・小型の自動配送ロボットが公道を走る場合のルールを新たに定める動きが進められた。結果として、令和4年の道路交通法改正により、自動配送ロボットのうち、遠隔操作型小型車と呼ばれるカテゴリーについては、令和5年4月1日から公道での走行が可能となっている。
本会においては、改正道路交通法(以下「改正法」)の施行を見据え、昨年度は、「遠隔操作型小型車の安全基準」(以下「安全基準」)及び「遠隔操作型小型車の道路での運行に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」)の策定に取り組んだ。
本稿では、具体的な自動配送ロボットの実証実験の様子もご紹介しつつ、法改正に至る経緯、本会の活動内容、今後の展望について述べる。
2.道路交通法の改正から本会の設立まで
2.1 官民協議会の設置と公道実証実験の発展
令和元年9月に、物流の課題の解決のため、特にラストワンマイル配送での社会実装への期待から、「自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」(事務局:経済産業省)が立ち上がり、ロボットデリバリーサービスの実現に向けた検討が進められてきた。
一方、自動配送ロボットについては、公道実証実験を実施するための仕組みの構築が進み、国土交通省による保安基準緩和認定及び警察庁による道路使用許可によって、多くの企業が公道実証実験の経験を蓄積してきた。
2.2 公道実証実験の例①(楽天グループ株式会社)
楽天グループ株式会社は、令和元年から大学や公園などの私有地内でロボット配送の実証実験を行ってきた。令和元年5月には千葉大学の西千葉キャンパスで大学生協の飲食料品や文房具などを各研究棟へ配送する実証実験を行い、同年9~10月には横須賀市うみかぜ公園において西友リヴィンよこすか店の飲食料品などを公園内でバーベキューを楽しまれる方々向けに配送するサービスを行った。令和2年8~9月には東急リゾートタウン蓼科のグランピング施設においてヴィラの宿泊客へバーベキューの食材、デザート、朝食等をキッチンから配送するサービスも行っている。その後、自動配送ロボットの公道実証実験のルールが整備されると、令和3年3~4月には横須賀市馬堀海岸の住宅地において西友馬堀店の商品をロボットが公道を走行して配送するサービスを期間限定で行った。
現在は令和4年11月から茨城県つくば市においてつくば駅周辺の飲食店や小売店の商品を自動配送ロボットがお届けするサービスを毎日、日中から夜まで、雨天時も含め提供している(図1)。利用者はロボット配送専用のスマートフォン向け商品注文サイトにQRコードなどからアクセスし、店舗、商品、お届け場所と時間を選択して注文する。店舗では注文内容をスタッフが専用のシステムで確認し、商品を準備してロボットのロッカーに入れる。その後ロボットは公道を自動走行してお客様の指定した場所へ向かう。配送中はサイト上にロボットの現在位置が表示され、到着するとSMSや自動音声の電話で到着を通知する。ロボットのタッチパネルに暗証番号を入力すると扉が解錠されて商品を受け取ることができる。商品を受け取るとロボットは自動で帰還する。楽天グループ株式会社では、サービスに参加する飲食店や小売店を増やすとともに配送エリアも拡大していく予定となっている。
図1 実証実験の様子
(出典)楽天グループ株式会社より提供
2.3 公道実証実験の例②(TIS株式会社)
大手SIerのTIS株式会社では、中山間地域の社会課題解決に利する公道走行自動配送ロボットの社会実装を目指し、福島県会津若松市で市や大学、地場企業、地域NPOも巻き込み、産官学と市民が一体となったアライアンスで地域課題の解決に向けた議論を展開している。
その中で令和3年度は、会津若松市の農村部での買い物難民対策が取り上げられた。現時点では通信販売や移動販売、あるいは家族や近隣住民に買い出しを頼むことで、最低限の買い物レベルは維持できている。しかし高齢化に伴う運転免許証返納、目前に迫っている物流クライシス、採算維持が困難になりつつある公共交通機関などにより、近い将来に持続が困難になるであろうことが明らかとなった。そこでアライアンスでは、既存のサービス(タクシー買い物代行サービス)や公共交通機関の活用(路線バスの貨客混載)に、公道走行自動配送ロボットによるラストワンマイル配送を加えることで、複数のモビリティを連結したEnd to Endの買い物代行サービスによる買い物難民対策の実証実験を行った(図2)。
図2 実証実験の様子
(出典)TIS株式会社より提供
この買い物代行サービスは住民から一定の評価を得て買い物難民対策の一助になると期待されているが、持続的にサービスするためにはその収益性が大きな課題となる。そこで集落に配置する公道走行ロボットを多能工化し、配送だけでなく様々な用途で利活用することでロボットの稼働率を向上させ、業務あたりの単価を下げられないかと考えた。これに基づいて地域住民へヒアリングし、令和4年度はゴミ回収と地域の小学校への給食野菜の集荷・配送を公道走行ロボットに担務させる実証実験を行い、一定の成功を得た。
これらの実証実験を通じて、中山間地域の社会課題解決に向け、公道走行自動配送ロボットは、効果的な業務が複数掘り起こせることがわかった。ただし、地域が主体となり自立して公道走行ロボットを利活用できる持続可能なエコシステムの確立が急務であることも判明した。
2.4 公道実証実験の例③(株式会社ZMP)
株式会社ZMP(以下「ZMP」)は、株式会社関西フーズ(以下「関西フーズ」)が姫路市にて実施した屋外フードデリバリーサービスの実証実験で、無人宅配ロボ「DeliRo®(デリロ®)」を運用した(実施期間は令和5年2月8日(水)~12日(日)及び、同年2月22日(水)~26日(日))(図3)。
この取組では公道走行を実施した。姫路駅前周辺に指定した9箇所のデリバリーポイントにデリロがお寿司を配達した。一般利用者は、関西フーズのお寿司注文システムでお寿司の受取時間、受け取り場所等を入力するだけで、簡単に配送サービスが利用可能となった。なお、お寿司の注文システムとZMPのロボットマネジメントプラットフォーム「ROBO-HI®(ロボハイ®)」(クラウドシステム)が連携し、ロボットのルート設定や走行管理業務を運営した。
なお、本実証実験では、注文から受け取りまでの時間を30分以内に行うことを目標の一つとし、利用者に新鮮な商品をデリバリーした。
※本実証実験は、関西フーズが幹事企業となり、ZMPと連携し経済産業省の「令和4年度地域新成長産業創出促進事業補助金(地域デジタルイノベーション促進事業)」を活用して実施したもの。
図3 お寿司を公道デリバリーしたZMP「DeliRo®(デリロ®)」
(出典)株式会社関西フーズより提供
2.5 ロボットデリバリー協会の設立
政府の重要な動きとしては、成長戦略実行計画(令和3年6月閣議決定)において、産業界における自主的な基準や認証の仕組みの検討を促すことを前提として、低速・小型の自動配送ロボットを活用した配送サービスを実現するため制度整備を進める旨が記載されたことがある。 これを機に、産業界の機運が高まり、当時自動配送ロボットの公道走行実験を実施していた企業が中心となり、令和4年1月20日に本会が設立されることとなった(図4)。
図4 本会が担う役割
(出典)ロボットデリバリー協会
2.6 道路交通法の一部改正
本会の設立と並行して政府において検討が進められてきたのが道路交通法の改正である。令和4年の道路交通法改正においては、一定の条件を満たす自動配送ロボット等が分類される遠隔操作型小型車の交通方法等が規定された。
具体的には、遠隔操作により通行する小型の車であって、最高速度や車体の大きさが一定の基準に該当するものを「遠隔操作型小型車」とし、歩行者と同様の交通ルール(歩道・路側帯の通行、横断歩道の通行等)を適用することとされた。また、遠隔操作型小型車の使用者は遠隔操作型小型車を通行させるにあたって都道府県公安委員会に届け出なければならないことが規定された。
改正法により対象となったものは、完全自律走行するものではなく、「遠隔操作型小型車」であることに注意が必要である。あくまで、ロボットを遠隔操作する者が存在することが前提となっており、後述する安全基準やガイドラインについても、遠隔操作を前提として策定した。
2.7 本会の活動内容
代表理事である佐藤知正東京大学名誉教授の下、本会は主に下記の内容について活動することとしている。
(1)遠隔操作型小型車の安全基準の制定と改訂
(2)遠隔操作型小型車が遠隔操作により安全に通行させることができることについての審査
(3)遠隔操作型小型車の遠隔操作者等の人材育成の仕組みの創設と運用
(4)自動配送ロボットに関係する行政機関や団体等との連携
(5)自動配送ロボットに関する情報の収集と発信
3.安全基準・ガイドラインの策定
3.1 安全基準及びガイドラインの策定
道路交通法改正法案が国会に提出されたことに合わせ、本会は「自動配送ロボットの安全基準等の策定方針」を発表した。改正法が成立し、その施行期日が令和5年4月1日とされたことで、その期日までに安全基準とガイドラインを策定することが本会の重要なミッションとなった。
安全基準とは、遠隔操作型小型車を用いた配送等の健全な普及のため、安全確保の観点から遠隔操作型小型車、遠隔操作装置及びシステムに要求される事項を定めるものである。本基準は遠隔操作型小型車について、運行形態を加味したリスクアセスメントが実施されていることと、本会が定める遠隔操作型小型車の道路での運行に関するガイドラインに則って運行されることを前提としている。ガイドラインについては、遠隔操作者の知識・技能の確保等の遠隔操作型小型車を安全に運行するために使用者が遵守すべき事項を定めるものである。
最後に、道路交通法施行規則第5条の4第3項第4号において、遠隔操作型小型車の使用者は、「遠隔操作型小型車が遠隔操作により安全に通行させることができることの審査を行うことを目的として設立された一般社団法人の審査に合格したことを証する書面等」を添付した上で都道府県公安委員会への届出が必要である旨が規定されており、本会としてはこの役割を果たすべく、安全基準適合審査を実施している(図5)。既に審査合格証を発行し、都道府県公安委員会への届出が出された実績も出てきており、今後多くの地域で遠隔操作型小型車が運用されるよう、本会として支援していきたい。
図5 遠隔操作型小型車の届出制度
(出典)ロボットデリバリー協会
4.国際標準策定に向けた動き
自動配送ロボットについては、日本のみならず、海外においてもその社会実装に向けた取組が進んでおり、自動配送ロボットの安全性等の国際標準策定に向けた活動が、国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical Commission)において始まっている。
IECの専門委員会(TC:Technical committee)の一つであるTC125において、自動配送ロボットを含むe-Transportersが検討対象とされており、TC125傘下のWGにおいてより詳細な検討が進められている。特に、自動配送ロボットの安全規格策定については、TC125傘下のWG6(General requirements for autonomous cargo e-transporters)において検討することとされている。
本国際標準策定の活動を進めるにあたっては、本会は日本産業調査会(JISC)に申請を行い、IECの国際規格案等の審議を引受ける国内組織である「国内審議団体」として承認されたことから、本会に設置されている国際部会を国内における意見集約の場として会合を開催している。
TC125のWG6については、国立研究開発法人産業技術総合研究所の中坊嘉宏氏がConvenorを勤めており、日本主導での国際標準策定に取り組んでいる。令和6年度中の国際標準発行に向けて原案の検討作業を進めている。
5.おわりに
以上、遠隔操作型小型車に関する法改正に至る経緯や、業界団体である本会の設立経緯及び今後の活動の展望を中心として、自動配送ロボットに関する現状について述べた。自動配送ロボットについては、今後の物流のあり方を支える重要なイノベーションの一つと考えられているところ、今後は自動配送ロボットの社会実装が重要な課題となる。身近なところで自動配送ロボットが走行することになるが、この新しい発明が世の中に受け入れられるためには、丁寧な情報発信も必要となる。本会としても、自動配送ロボットが世の中に根付くために積極的な活動を展開していきたい。本会の活動にご関心をお持ちいただいた企業等の皆様は、ぜひ事務局にご連絡ください。
【参考文献】
1)経済産業省 自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/jidosoko_robot/index.html
2)内閣官房:2021年成長戦略実行計画
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/pdf/ap2021.pdf
3)一般社団法人ロボットデリバリー協会:HP
https://robot-delivery.org/about
4)IEC:TC125 e-Transporters
https://www.iec.ch/dyn/www/f?p=103:7:0::::FSP_ORG_ID,FSP_LANG_ID:23165,25
横山 啓(よこやま けい)
大学卒業後、総務省に入省し、政府の情報システム改革、マイナンバー制度、税制改正などに携わる。岡山県庁と三重県庁に出向した経験もあり、三重県庁ではDX推進の責任者を務めた。令和4年から、パブリックアフェアーズのコンサルティングを行うマカイラ株式会社に参画し、一般社団法人ロボットデリバリー協会の事務局長も務める。
※公道実証実験に関する記載については、各実施企業に寄稿のご協力をいただきました。